新着情報

平成26年5月29日
公立大学法人兵庫県立大学
スイス連邦工科大学ローザンヌ校

超低価格化が可能な印刷プロセス太陽電池作製に成功―ペロブスカイト薄膜と無機銅系正孔輸送材を使用することで変換効率12.4%を達成―(H26.5.13)

本研究成果のポイント
〇 従来の有機系正孔[3]材料の替りに無機銅系正孔輸送材をペロブスカイト[1]薄膜に適用
〇 変換効率12.4%の非真空プロセスの超低価格太陽電池の作製に成功
〇 基幹エネルギーになりうる超低価格新型太陽電池の可能性を提示

兵庫県立大学(清原正義学長)、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(光学界面研究所長 マイケル・グレッツエル教授)他は、無機銅系正孔輸送材をペロブスカイト薄膜に適用することで、変換効率12.4%の非真空プロセスの超低価格太陽電池の作製に成功しました。これは、兵庫県立大学大学院工学研究科の伊藤省吾准教授と田中聡一郎修士2年生と、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のマイケル・グレッツエル教授とモハメド・ナジールジン研究員とニコラス・テレオール研究員とペン・キン研究員他の共同研究開発による成果です。
ペロブスカイト太陽電池は2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授のグループが開発した全く新しい太陽電池であり、2012年にいくつかのグループで固体型高効率のペロブスカイト太陽電池が開発され、この2年間でNature誌の兄弟誌およびScience誌で併せて10報以上の報告がなされている、非常に注目を浴びている太陽電池です。ペロブスカイト太陽電池は非真空プロセスにより10%を超える変換効率を出力することから非常に注目されてきましたが、そのペロブスカイト層からプラスの電荷を引き出すために高額で耐久性の低い有機のホール輸送材が使用されてきました。この有機ホール輸送材は1グラム当たり8万円から20万円もし、金よりも高い材料であったため、ペロブスカイト太陽電池を実用化する上で大きな問題でした。
本共同研究グループは、高額で劣化が早い有機ホール輸送材の替りに安価で安定性の高い無機銅系正孔輸送材(CuSCN:銅チオシアン酸[2])を適用することで、有機ホール輸送材と同程度の変換効率である12.4%の印刷プロセスペロブスカイト太陽電池の作製に成功しました。
本研究は、JSTの重点戦略的研究課題ALCAの支援を受けて実施され、本成果は英国の科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版(日本時間5月12日18時)に掲載されました。分析などで協力関係にある大阪ガス株式会社との共著になっています。

1.背 景

近年、安全で環境に対しよりクリーンであり、より安価なエネルギーが求められております。その一つとしてクリーンな発電技術である太陽光発電が注目を浴びており、新エネルギーとなりうる低価格太陽電池の開発は急務となっております。太陽光エネルギーは無尽蔵で、化石燃料のような枯渇の心配がなく、また、CO2を増やす事もありません。しかし、現在市販されている太陽電池は真空プロセスであるCVD[4]スパッタリング[5]等を使用するために設備費がかさみ、さらなる低価格化が困難となっております。そこで、真空プロセス製膜のみに依拠せず、簡便に製造可能な光電変換装置の開発が求められています。

近年、金属ハロゲン化物としてヨウ化鉛を採用したペロブスカイト化合物 [(RNH3)nPbI(2+n)(但し、Rは炭化水素基を示し、nは1又は2を示す)] を太陽電池の光吸収層の材料として利用した例が数多く報告されておりまして、このペロブスカイト太陽電池は簡便な大気下塗布法で、17.9%もの太陽エネルギー変換効率が報告されております。このペロブスカイト太陽電池の実用化の為、そのさらなる改善が望まれております。特に、これまでのペロブスカイト化合物太陽電池には有機ホール輸送材が使用されており、この有機ホール輸送材を構成する炭素―炭素間二重結合は水と酸素と光で開裂反応を起こすことから、この有機ホール輸送材を無機材料に置き換えることは非常に望ましいと考えられます。さらに、この有機ホール輸送材は1グラム当たり8万円から20万円もし、金よりも高い材料であったため、ペロブスカイト太陽電池を実用化する上で大きな問題となっておりました。

2.研究経緯

これまで、兵庫県立大学では、<glass/ F-doped SnO2 / TiO2 / porous TiO2 /Sb2S3/CuSCN / Au>という構造の太陽電池を作製してきました。なかでも特に、無機のホール輸送材である銅チオシアン酸(CuSCN)を使用した太陽電池に特徴が有り、変換効率は5.7%を記録し、当該トピックの研究としては世界のトップランナーの一つとなっておりました。しかし、2年前に突如としてペロブスカイト太陽電池が出現し、2013年には変換効率が15%の記録が報告されるようになりました。ちょうどその報告を行ったチームは兵庫県立大学伊藤省吾がかつて博士研究員として所属していたスイス連邦工科大学ローザンヌ校のグレッツエル研究室でありましたので、伊藤省吾の元上司のグレッツエル教授にお願いをし、兵庫県立大学の大学院生である田中聡一郎君を昨年の夏休みの50日間をスイスで研究させる事が出来ました。田中聡一郎君はスイスでペロブスカイト太陽電池のノウハウを吸収し、帰国後に兵庫県立大学が培ってきた無機ホール輸送材銅チオシアン酸(CuSCN)をペロブスカイト太陽電池に適用した所、CuSCNを使用した太陽電池としては世界トップ効率の12.4%を記録することになりました。特に、従来使用されてきた有機ホール輸送材は非常に高額(1グラム当たり8~20万円)であり、これを使用せずに1グラム当たり30円程度の安価なCuSCNを使用して太陽電池を使用出来る事は非常に意義深いことと考えられます。その上、有機ホール輸送材はドーピング材料として吸湿性のリチウムを使用するため、リチウムイオン電池の様に大気中の水分に弱いと考えられ、さらに分子内部に炭素間の二重結合を有することから、色素が光劣化するように有機ホール輸送材は劣化していくものと考えられています。それに対し、リチウムを使わない無機化合物であるホール輸送材であるCuSCNを使用したペロブスカイト太陽電池は、現在グローブボックスを使用せずに大気下で作製されて12.4%が出ており、これまた非常に意義深いと考えられます。

3.研究手法

具体的な太陽電池の作製方法は以下の通りです。セル構造として、<glass / F-doped SnO2 / TiO2 / porous TiO2 / (CH3NH3)PbI3 / CuSCN / Au>構造の太陽電池を作製しました(下図(a)参考)。透明導電性基板であるglass / F-doped SnO2(以降、FTOガラス)は、アメリカのピルキントン社(日本板硝子と合併)から購入し、洗剤水溶液とエタノールで超音波洗浄し、UVオゾン洗浄を行い、表面を清浄にしました。その後、titanium di-isopropoxide bis(acetylacetonate)のエタノール溶液を加熱したFTOガラス上に吹き付け、緻密TiO2薄膜を得ました。緻密TiO2層は、FTOとペロブスカイトを分離する役目が有ります(図(b))。その上に多孔質TiO2膜を、TiO2ナノ粒子をスピンコート[6]して焼成することで得ました。多孔質TiO2は光励起した電子をペロブスカイト層から引き抜く役割が有ります(図(b))。ペロブスカイト層を多孔質TiO2膜内部に積層するために、PbI2のN,N-dimethylformamide溶液をスピンコートし、得られたPbI2層をCH3NH3Iのイソプロパノール溶液に20秒間浸漬することで、目的となる(CH3NH3)PbI3のペロブスカイト層を得ることが出来ました。そのペロブスカイト層の上に、基板温度65℃で0.05M CuSCN in n-propyl sulfide溶液を滴下しました。CuSCNは光励起で発生した正孔(プラス電荷)を引き抜く役割が有ります(図(b))。一滴ずつ滴下しながらガラス棒で電極表面を均し0.5~1μm程度堆積させました。さらに、Au背面電極を蒸着法により製膜して目的の太陽電池を得ました。


図.(a) ペロブスカイト太陽電池の構造図、(b) ペロブスカイト太陽電池のエネルギーダイヤグラムと電子挙動

4.今後の期待

ついに、安い材料で、しかも簡単に太陽電池を作製することが出来ました。残る問題はその太陽電池の耐久信頼性の検証とペロブスカイト層に含まれる鉛の毒性です。現在、耐久性を向上させる研究は、兵庫県立大学で精力的に行われております。また、鉛フリーのペロブスカイト太陽電池は他の機関で研究開発されており、スズ(Sn)を使用したもので6%のものが先日報告されました。しかし他機関のペロブスカイト太陽電池ではいずれも高額な有機ホール輸送材が使用されています。以上から、ペロブスカイト太陽電池は今後の進展が期待され、ペロブスカイト太陽電池の市場化の際には必ず本発明の無機系ホール輸送材であるCuSCNが使用されるはずであると考えられます。

原論文情報: Peng Qin, Soichiro Tanaka, Seigo Ito*, Nicolas Tetreault, Kyohei Manabe, Hitoshi Nishino, Mohammad Khaja Nazeeruddin* & Michael Gratzel (* corresponding authors)
"Inorganic hole conductor-based lead halide perovskite solar cells with 12.4% conversion efficiency"
Nature Communications, 2014, doi: 10.1038/ncomms4834

報道担当・問い合わせ先

  • 兵庫県立大学工学研究科 准教授 伊藤省吾
    メール:itou@eng.u-hyogo.ac.jp (5月15日まで海外出張中のためメールのみでの対応となります。)

  • 兵庫県立大学産学連携・研究推進機構
    教授 長野寛之
    特任教授兼リサーチ・アドミニストレーター 上田 澄廣
    電話: 079-283-4560  メール:sangaku@hq.u-hyogo.ac.jp

特殊用語の説明

  • 〔1〕ペロブスカイト
    ロシアの研究者ペロブスキー(1792~1856)が発見した結晶構造。
    他には、CaTiO3やBTiO3などの無機系材料が有名。

  • 〔2〕CuSCN(銅チオシアン酸)
    溶媒にとける正孔輸送材料。
    チオシアン酸イオン(SCN-)は安定な化合物であり、シアン(CN-)とは異なり、毒性は低い。

  • 〔3〕正孔
    電子に対する、プラス電荷の事。

  • 〔4〕CVD
    化学蒸気堆積法(ケミカル・ベーパー・ディポジション、chemical vapor deposition)。真空中で加熱した基板上に反応性の高い化学物質を分子状にして吹き付ける事で、均一に超薄膜を作製することが出来る方法。非真空プロセスに比べ、装置代が高くなり、作製時間もよりかかるため、太陽電池のプロセスとしてはコストアップとなる作製方法。

  • 〔5〕スパッタリング
    真空中で材料にプラズマを照射し、そのプラズマ中で加速したイオンが材料に照射する事で、その材料が真空中に飛び出て(スパッタされて)、対面に設置した基板上に材料を積層させる方法CDVと同様に均一に超薄膜を作製することが出来る方法。非真空プロセスに比べ、装置代が高くなり、作製時間もよりかかるため、太陽電池のプロセスとしてはコストアップとなる作製方法。

  • 〔6〕スピンコート 
    基板上に均一に液体を塗布する方法。目的とする基板に塗布剤を乗せ、高速で回転させることで遠心力を利用して基板表面の液体の厚さを均一にすることが出来る。

ページ先頭へ戻る