学部: 緑環境景観マネジメント研究科2回生(当時)
氏名: 石塚 昇路
留学期間: 2016年9月15日~2017年1月15日
留学先: アメリカ・ワシントン州シアトル市 ワシントン大学大学院ランドスケープ学科
ワシントン大学のVisiting Graduate Student制度を活用し、1クォーター留学しました。この制度は米国以外の大学に所属しながらワシントン大学の学生同様に大学に在籍して学べる制度です。交換留学ではないため、留学に係る手続きから大学で学ぶための出願から履修登録、学費の支払い等までほとんど自力で済まさなければならないのはとても大変でしたが、他の学生同等に自由に授業を受けられるのはとても良かったです。
ランドスケープ分野を研究するのではなく、実践的に学びたいと思ったことから米国大学院へ行きたいと思ったのですが、特にエコロジーの視点から都市をデザインすることに興味があったため、「Urban Ecological Design」という理念を掲げ、グリーンインフラやアーバンエコロジーといった生態学視点からの都市デザインの教育が特徴的なワシントン大学で学ぶことを決意しました。
またワシントン大学は、世界大学ランキングでは常に上位(各ランキングによって順位はバラバラですが)で、「パブリックアイビー」と呼ばれる米国の州立大学の名門大学のグループにも数えられるので、そのような優秀な学生が集う環境に身を置くことで自分が大きく成長できるのではないかと考えたのも理由の一つです。
そもそも私が米国の大学院へ留学したいと思ったのは学部4年生のあたりからです。学部生のときは環境学(植物生態学)を専攻しており、自然環境の保全について学んでいました。大学4年の時に進路に悩んでいた時にある本に出会い、人と自然との関係について、生態学的視点を応用した都市デザインすることに興味を持ち、それはランドスケープアーキテクチュアという学問分野ということを知るとともにその学問を学ぶために米国の大学院へ留学することを志したのが動機でした。
しかしながら、自力で米国の大学院へ進学するのは費用面、英語力等、諸々の問題に直面し、学部卒業後すぐの留学は断念しました。しかしながら、留学したい、ランドスケープ分野を実践的に学びたいとい思いは依然と強くあったため、日本で唯一の環境・造園分野の専門職大学院がある兵庫県立大学大学院へ進学し留学のチャンスをうかがうことにしました。入学した後、「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」という自分で留学計画を行えて、かつ返済不要の給付型の素晴らしい留学プログラムがあることを知り、応募して今回の留学を果たしました。
街中でスケッチをするクラス
ランドスケープアーキテクトとして仕事をする上では自分がどういう風に考えて対象地をデザインしたのか伝える能力が必要不可欠で、そのスキルの一つとしてささっと絵が描けるスキル(ドローイングスキル)があります。学期の始まる直前にスケッチのクラスが開講していたので取りましたが、学期が始める前からクラスの内容に感動しました。まずそれはクラスの先生が「ドローイングスキルはセンスではなく、トレーニングすれば身につくスキルである」と明言し、かつクラスメイトも絵を美しく描けるかどうかを競い合うことなくそれぞれの個性を尊重し、互いにスキルを伸ばしていこうという空気がクラス内にありました。学科の日本人は私一人だけでとても心細かったですが、気さくに話しかけてくれるクラスメイトがいてありがたかったです。
スケッチする理由は私たちランドスケープアーキテクチャーを学ぶ者にとっては、その場所の特徴を捉えるため、人に自分のデザインのイメージや重要なポイントを伝えるためであり、美しい絵を描くことが目的ではありません(もちろん美しく描けることにこしたことはありませんが)。ですので、絵を描くための基本的なポイントをしっかりと得て、どんどん描いていくというような内容でとてもわかりやすかったです。またそして絵をうまく描くそれよりも、描きながらデザインする場所の雰囲気や空気感を感じることが大事で、スケッチのクラスでは教室内で写真等をみながら絵を描かずに外に出て本物を描く、街の中で街の雰囲気を感じながら描くことが多かったです。これは本当に楽しく学べましたし、絵を描きながら街の特徴を捉える感覚を養え、まさに「体に染みつく授業」だと感じました。
学期中に履修したStudio(デザインワーク中心のクラス)では、実際に進行中のプロジェクトに学生達が関わって学ぶ内容のクラスでした。
プロジェクトの概要を説明すると、ワシントン州郊外のボーゼル市にある公立のゴルフコースを人口増加に伴い、新たに公園にする計画で、対象地のゴルフコースは周辺が宅地化される中、大面積の自然が残っているのでそれを保全しつつ、人々が多様に利用できる公園にしたいということでした。
またデザインするまでのプロセスとして、実際に対象地を訪れて図面では得られない情報を得る、感じたことを共有し、それをもとに対象地を含めた社会環境(歴史文化や人口動態等)、自然環境(生物相、動物相や年間気温や日照条件等)をリサーチし、関係者へのヒアリングを行い、今回のプロジェクトに関するケーススタディや論文を読んでディスカッションを行う等、一連のデザインプロセスを経験できたことは今後自分の支えとなりうると思います。しっかりとしたリサーチを基に自然環境保全や生物多様性向上に貢献しつつ人々が利用できる場所をデザインする、つまり自然と関わりながら人間が生活できる場所をつくる、ということはまさに自分がこれまで学びたい、今後自分がやりたいと強く思っていたことだったので、一人で感動しながらデザインワークに取り組んでいました(笑)。
デザインプロセスを進めていくうちに対象地の特徴や課題が明らかになっていきました。たとえば、対象地内には川が流れていて、そこには何種類かのサケが生息しているのですが、地球温暖化、樹木の伐採による水温の上昇、周辺の宅地開発による水質汚染等により個体数が減少しているため、水環境を改善しながら、周辺住民のコミュニティ形成、多様なアクティビティ活動の場として活用するためにデザインをする必要があることがわかりました。「自然環境を保全、改善しつつ、多様なアクティビティ、活動プログラムを提供できるような公園デザイン」を行う必要がわかり、それぞれが違う切り口でアプローチ、デザインを考えていきました。クラスメイトのデザインは本当に多種多様でディスカッションはとても勉強になりましたし、あらかじめ課題が提示されるのではなく、進めるうちに課題、特徴がわかりそれらをふまえてデザインしていくという点は本当に実践的だなと感じました。
学期の最後には大学の先生のみならずこのプロジェクトに関わる地元住民やNPO環境保護団体、市役所、州の担当部署の方々がレビュアーとして来られて講評をして頂きました。真摯に、そして的確に意見やアドバイスを頂きました。寝る間も惜しんで朝から晩まで毎日取り組んでいたので、終わった後の達成感や解放感はすごく大きかったです。
このように実際のプロジェクトを通してデザインワークを行っていくということは本当に多くのことを学んだと同時にランドスケープ分野における実践的な教育の重要性を改めて感じました。
大学生活は普段は学部棟や図書館に籠り、朝から晩まで課題に取り組む日々を送り、学期中の連休や学期後の合間には旅行をしました。
また、留学したらやりたいと思っていたことも実現することができました。
やるときはしっかりと勉強し、休むときは思いっきり余暇を楽しむというような、日本では経験できないメリハリのある過ごし方もまた留学ならではの経験だと感じました。
卒業後は総合建設コンサルタントの都市計画部門において、地方都市、地域社会が抱える様々な課題に取り組んでいく予定です。どのような形で地域に貢献できるのか、現状そして課題を、仕事を通して考え、今後は地域資源を活用した自然と関わりあいながら、人が生活できる都市デザインができることを目指して、日々精進していきたいと考えています。自分の人生はこれからが本当のスタートだと思っています。
また、私自身、今回の留学実現のために研究室の先生や大学の関係者はもちろん、大学以外の方々にも大変お世話になりました。今後、大きな夢や熱意を持って留学したいと考えている方々の何かお力になれればと考えておりますのでお気軽にご連絡頂ければと思います。(兵庫県立大学の国際機構、国際交流員に問い合わせください。)
※大学院HPや文科省トビタテ!の留学大図鑑でもインターンなどその他の留学活動について掲載されています。そちらもご覧頂ければ幸いです。