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式辞など

令和元年度学位記授与式 学長式辞

本日、学士、修士、博士の学位を取得され、卒業の日を迎えられた皆さん、誠におめでとうございます。

兵庫県立大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。また、この日に至るまで長い年月にわたって、皆さんの成長を支えてこられたご家族、関係者の皆様にも、心から敬意と感謝の意を表します。

本年度は、学士1,299名、修士は、専門職学位を含め402名、博士21名、論文博士2名合計1,730名が学位を取得されました。兵庫県立大学として送り出した卒業生は皆さんを含めて合計22,216名となりました。前身の旧3県立大学等を含めますと、総計75,292名となります。

さて、昨年12月に中国湖北省武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」の症例が初めて確認されて以来、この新型コロナウイルスによる肺炎感染は瞬く間に世界中に拡大し、150カ国以上で15,000人を超える死者と35万人以上の感染者が出るに至っています。未だその勢いは弱まっていません。

世界保健機関(WHO)も3月11日に「パンデミック」を認定しました。

日本も例外ではなく、その魔手は広がりを見せています。感染拡大を防ぐために、卒業生、修了生の皆さんの晴れの門出を、このように変則的な形でお祝いしなければならない仕儀となり誠に残念でなりません。

本来であれば、令和最初の学位記授与式として多くのご家族やご来賓をお迎えして、厳粛かつ盛大に行う予定でしたが、中止という正に苦渋の決断をせざるを得ませんでした。このような事情で、ビデオメッセージとなりますが、皆さんの卒業に当り私からお祝いの挨拶を申し述べます。

世界は今、政治、経済を含めて社会の在り方そのものが大きく急速に変貌しつつあります。特に、米国のトランプ政権やイギリスのブレグジットに代表されるように、自国ファーストの潮流が勢いを増し世界のトレンドは協調から分断と対立の方向にどんどん向かっているように見えます。その結果、覇権主義の伸張や軍備の増強、貿易戦争などに加えて、過激思想や宗教的対立などによるテロの頻発、内戦による難民の続出、そして難民の排斥など人類社会にとって容易ならざる事態が起こっています。

その根底にあるものを考えるとき、人類が長い歴史をかけて築き上げてきた民主主義への信頼が揺らぎ始めているのではないかと危惧されます。

多様性を尊重し、異論や異文化に寛容な社会に立ち返ることが強く求められます。

これらの事態を招いている背景には、デジタル革命によってもたされた現在のサイバー社会が色濃く影を落としているように思われます。私たちが生きている空間は現実のフィジカル空間ですが、その活動はサイバー空間に蓄積された情報に大きな影響を受けるようになってきています。

例えば、企業が人々の興味関心を集めるサービスを提供するとあっという間に広がり、大きな成功を収めます。同じように、ネット上のフェイクニュースも一気に拡散し、偏った意見が勢いをもつようになります。このように、ネット上にある多種多様な情報の中からある特定の情報だけが滝の流れるようにどんどん拡散していく現象はサイバー・カスケードと呼ばれますが、このことは人々の心理や行動に大きな影響を与えるようになっていきます。

サイバー社会では、インターネット上の情報から自分と同じような意見を見つけると余り深く考えずにそれに同調し、それがさらに他の人に結びつくというように、指数関数的に拡散していきます。もちろん、ポジティブな効果も多くありますが、往々にしてそのような連鎖には負の側面が強く現れ、多様性の尊重という社会の本質を見失った状態で、単色的な多数意見となりがちです。

いま、日本政府は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた新たな未来社会、ソサイエティ5.0を提唱しています。その入り口にある現在、将来が危惧される様々な世界情勢や政治の動きは、私たちにサイバー社会の危うさを知らせるための警鐘を鳴らしていると認識しなければならないのではないでしょうか。

元来、政治体制や社会構造の大きな変化・変革は新しい科学技術・工業技術の進歩によって誘発されてきています。18世紀の蒸気機関の発明による産業革命は、農耕中心の地方を工業都市に変え、第二次産業革命では、内燃機関の発明や電力を用いた大量生産の時代となり労働者階級が生まれました。トランジスタの発明に端を発する第三次産業革命では、コンピューターや情報通信技術などの発展により知的作業の効率化や情報伝達の即時化・広域化をもたらしました。1989年に始まった東欧革命では、西側諸国の衛星テレビから入ってくるリアルタイムの情報が大きな役割を果たしました。

現在は第4次産業革命の時代と呼ばれており、個々にカスタマイズされた生産やサービスの提供、AIロボットによる労働の補助や代替などが進んできています。最終的には、人間の思考と機械の情報処理の区別ができなくなる未知の世界に入り込んでいくかもしれません。未来は、これらの技術革新と表裏一体となって、超スマート社会、すなわちソサイエティ5.0の社会に進んでいきます。

卒業生の皆さんは、自然科学、社会科学の分野に拘わらず、科学技術の研究開発や社会実装に深く関わっていくことになります。ここまでに話したことをしっかり胸に刻んで、全人類が幸福に暮らしていける社会をしっかり創り上げていって頂きたいと強く願っています。多様性を大事にする兵庫県立大学を巣立っていかれる皆さんには、知のプロフェッショナルとして本学での学びを活かしていく大きな責任もあります。

デジタル化が進めば進むほどアナログ的思考が重要となります。重大な局面や困難な課題に直面したときには、「1」か「0」ではなく、その背景にある様々なことに思いを巡らし、万人に説明責任を果たせるよう柔軟に解を探すことが大切です。このとき、皆さんが本学で身に付けた教養が活きてきます。高い見識と倫理観をもって、日常的にくだらないものは拒否し、本物とニセ物、真贋をしっかり見分けて下さい。そして矜持を大切にして下さい。皆さんがそうすることは、近年劣化が進む社会正義の復権にも繋がっていきます。

皆さんの未来は前途洋々です。自らの手で未来を切り拓いていくことができます。しかし、未来は貴方たちを待ってはくれません。気が付くと一歩も前に進んでいない現実を突き付けられることがあります。日々地道な努力を忘れず続けて下さい。卒業生と学生は大学の宝です。卒業される皆さんが、それぞれの道で大成されることを心から祈っています。また、その活躍が本学の評価を高め、在学生の勉学へのモチベーションを向上させます。皆さんの両肩には、兵庫県立大学の名声と未来も掛かっています。

最後に、皆さんに「心眼」という言葉を贈りたいと思います。与えられた職場や環境で自己研鑽に励み、それぞれの専門を通して「心眼」を磨いて下さい。物事の本質、真髄や目に見えない真実を見抜く力です。先ほどの真贋を見分ける力はまさにそうですが、モノづくりや科学の分野では、科学的な推論や経験から、本来目に見えない現象の本質を理解する力と言うことができます。血の滲むような努力を続けていると、本来視覚で捉えることのできない科学的事象や工学的現象が心に見えてきて様々なアイデアが湧き出し、新たな発見や発明に繋がっていきます。

「卒業」は終わりを意味するものではありません。皆さんと兵庫県立大学との繋がりは永遠です。本学に対して、卒業生だからこそできること、卒業生にしかできないことを是非考えて頂きたいと思っています。私たちは、兵庫県立大学が、皆さんの「学問の故郷」、「青春の故郷」として必要な時にはいつでも戻ってこられる場となるよう、日々努力を続ける所存です。教職員一同いつも皆さんをお待ちしております。本日は、誠におめでとうございます。

以上をもって式辞といたします。

令和元年度卒業生・修了生に向けた学長式辞(再生時間13:17)

令和2年3月24日
兵庫県立大学 学長 太田 勲

 

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