本日、学士、修士、博士の学位を取得され、卒業の日を迎えられた皆さん、誠におめでとうございます。兵庫県立大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。また、この日に至るまで長い年月にわたって、皆さんの成長を支えてこられたご家族、関係者の皆様にも、心から敬意と感謝の意を表します。
本日、学士1,228名、修士は、専門職学位を含め373名、博士22名、論文博士2名、合計1,625名が学位を取得されました。兵庫県立大学として送り出した卒業生は皆さんを含めて合計23,885名となりました。前身の旧3県立大学等を含めますと、総計76,961名となります。
本日は、本学法人理事長の五百旗頭真先生にご臨席頂き、兵庫県知事井戸敏三様からはビデオメッセージを、兵庫県議会議長原テツアキ様からはお祝いのメッセージを頂いております。また、本学と連携関係にある兵庫県の施設・機関、及び本学後援会、同窓会からそれぞれ代表の方に、ご多忙の中ご来賓としてご出席を頂いております。ご来賓各位に衷心より御礼を申し上げます。
昨年度の学位記授与式は、感染防止を最優先としたため、対面形式での実施を諦めざるを得ませんでした。卒業式当日に、式辞を動画でリモート配信して、卒業生と修了生をお送りするという残念な仕儀となりました。
今年こそは、本学で勉学と研究に熱心に取り組まれ、それが形となる晴れの学位記授与式については、是非対面で開催し、直接お祝いと式辞を述べたいと強く望んでいました。しかし、現下の感染状況を勘案するとき、例年通り全ての卒業生とご家族を一同にお招きして開催することは難しく、このように学生の皆さんのみを対象として午前と午後の2部制で挙行することとさせていただきました。この式典の様子はライブ配信していますので、ご家族、関係者にはネット越しに皆さんの晴れの姿をご覧いただいております。
午前の部は、経済学部、経営学部、看護学部、経済学研究科、経営学研究科、看護学研究科、応用情報科学研究科、シミュレーション学研究科、減災復興政策研究科、会計研究科、経営研究科の3学部、8研究科の皆さん、657名を対象に開催しております。改めて、この日を迎えられた会場の皆さんに、心からの敬意と祝意を表します。
(午後の部は、工学部、理学部、環境人間学部、工学研究科、物質理学研究科、生命理学研究科、環境人間学研究科、地域資源マネジメント研究科、緑環境景観マネジメント研究科の3学部、6研究科の皆さん、968名を対象に開催しております。改めて、この日を迎えられた会場の皆さんに、心からの敬意と祝意を表します。)
さて、皆さんは、新型コロナウイルスが猛威を奮っている大変な時期に、学部、あるいは大学院の博士前期・後期課程の最後の学年を迎えられました。キャンパス閉鎖や入構制限のため卒業に向けた勉学や研究に大きな影響を受けられたことと思います。特に、前期は主にオンラインによる講義や研究指導となったため、友達と会う機会も少なく、先生ともネット越しにしか話ができず、また、クラブ活動も制限され、就職活動はオンラインが主流になるなど、これまでとは全く違う、異次元の経験をされ、不安を覚えられた人も多かったことでしょう。
このような中で、ホームページやユニバーサルパスポートなどを介して様々な感染防止対策をお願いしましたが、今日卒業される皆さんをはじめ多くの学生諸君が、社会的責任を十分自覚し、兵庫県立大学の学生としてのプライドを持って良識ある行動を取ってくださいました。その結果、一部で心配する事態も発生しましたが、これまでの学生感染者の総数は14名にとどまり、7,000名近い学生が在籍する大学として、また近隣大学と比較しても、格段に低い感染率となっております。早期に対面授業や部活動を開始したにも拘わらず低水準で推移しており、改めて、学生の皆さんに感謝いたします。
しかし、学業生活最後の年に、100年に一度と言われるパンデミックに遭遇した皆さんは、大変不運で、不幸な世代であると言えるかもしれませんし、また実際にそのように感じている人も多いかと思います。しかし、見方を変えて皆さんの将来を考えるとき、社会へ足を踏み入れる直前にこのような未曽有の試練に直面した経験は、皆さんがこれからの人生を切り拓いていく上で、きっと色々な局面で役立ち、活きるものと考えます。
現在、科学技術は、宇宙の果てから生体内部のミクロな世界の解明に至るまで、様々な分野で急速に発展を遂げています。しかし、それを以てしても、人類という生物は自然に対して無力であるということを、このCOVID-19が図らずも証明したのではないでしょうか。人間社会は、コロナウイルスに対して有効な手段を講じることができず、社会的、政治的混乱に陥り右往左往しているようにも見えます。このような自然の脅威と人間社会の脆弱さを目の当たりにした皆さんの中には、自然とは、人類とは、人間社会とは、生命とは等々、根源的なことに思いを巡らせた人も多いことと思います。このような経験は、将来困難に直面したとき必ず活きてきます。これから皆さんが創っていかれる10年、20年先の社会を大いに楽しみにしております。皆さんは、良い意味でも悪い意味でもコロナ世代と呼ばれるようになりますが、是非良い意味でコロナ世代と呼ばれるようになってください。
この間、世界に大きな影響を与えるもう一つの重要な出来事がありました。それは、米国にバイデン第46代大統領が誕生したことです。その就任演説で、前政権の行き過ぎた権威主義的、ポピュリスト的政治手法によって危機にさらされた米国の民主主義を立て直すために、「Unity」という単語を何度も使い、全ての米国民に立場を超えて統一、結束することを呼びかけております。また、「私は全ての米国人のための大統領になります。私を支持してくれた人たちと同じように、支持しなかった人たちのためにも一生懸命に闘います。」という件(くだり)もあります。民主主義国家では至極当然で、当たり前のことですが、いまの国内外の社会情勢の中で、なぜか新鮮に響きました。
大統領就任後は、トランプ政権の米国第一主義による国際協調軽視の外交政策で削がれた米国のソフトパワーを立て直すために、矢継ぎ早に、パリ協定への復帰、WHO脱退の撤回、WTO改革、ヨーロッパとの関係修復等々を打ち出し国際協調路線重視を印象づけております。加えて、同盟国に対して「民主主義の堅持」を訴え、「ICTの急速な発展に伴う第4次産業革命からコロナパンデミックに至るまで、現在の社会が直面しているあらゆる問題に対処するには、権威主義、独裁主義が最善の道だと主張する勢力」に対抗することを求めています。人類が長い苦難の歴史の中で獲得してきた民主主義を決して後退させてはいけません。
去る3月4日に五百旗頭先生の構想のもとに開催した、本学と日本経済新聞社との共催による国際シンポジウム「バイデン政権下の日米中関係」で、いま世界では民主主義国家が減少して権威主義国家が増加しているというデータが示され、その問題点を指摘する解説がありました。私は少し驚きを覚えましたが、確かに、現在のミャンマー情勢などもあり、自国第一主義がはびこる中で様々な形の独裁的、権威主義的国家も増えてきていると感じます。
また、民主主義国家と言われる国の中にも、異論を封じ強権的な政権運営を行おうとする勢力が力を伸ばしてきているように見えます。そのような潮流の中で、一度、権威主義を黙認すると議論は単色化の方向にドンドン進んでいき、社会から活力が失われ、国民生活は疲弊し、社会の進歩も止まります。歴史の必然として、いずれ政権の私物化やネポティズムに繋がり、そのためにより権威主義的になるという悪循環に陥る恐れがあります。私たち、特に若い皆さんには、社会の発展の原動力である民主主義をしっかり守り、次世代に繋いでいく責任があると考えております。
さて、就職される皆さんは4月から新しい世界が始まります。新型コロナウイルス感染症対策で多くの企業が、その企業活動の在り方や勤務形態を変えたり、変えようとしたりしています。皆さん方の多くは、これまでの新入社員とはかなり異なる経験をされることになるのではないかと思います。この一年間で情報通信システムの利用が一気に拡がり、多くの企業がリモートワークを導入してきており、デスクワークや営業活動、サービス業などは様変わりしつつあります。また、IoTやAIの急速な進歩で、製造業における「ものづくり」の現場でもリモートによる加工や組み立てなどが行われる時代になってきております。
また、長く続くコロナ禍での様々な生活経験を通して、人々の価値観や社会に対する認識などが大きく変わってくることが予想されます。加えて、政府がデジタル庁の創設を表明したこともあり、社会の各分野においてデジタル・トランスフォーメーション、いわゆるDXが一気に加速する状況にあります。現在はアンダーコロナ、ウイズコロナという閉塞状態にありますが、いずれ収束してニューノーマルと言われる新しい時代が来ます。その時には、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた新たな未来社会、いわゆるソサエティ5.0が大きく展開していくと考えられます。
しかし、このような社会を創り、その中で活躍されるのは皆さんですから、決して臆することはありません。本学で身に付けた知識やスキルを活かし、身を置いた環境の中で日々努力を続けることで十分対応できます。そして、いずれ皆さんの多くは、経済界や産業界、あるいは医療界、学界など様々な分野で指導力を発揮しなければならない立場に立つことになります。その時のために、日々進歩する専門分野は勿論、幅広い分野の知識を講演や読書などを通して積極的に取り込み、異なる思考方法や異分野の知識に触れると共に、正しい批判力を身に付ける努力を続けることが重要です。自分の仕事や考え方を違う視点から見直し、反省や修正をする契機にもなります。兵庫県立大学の卒業生としての矜持をもって、背筋を伸ばした誇り高き人生を堂々と歩んでください。
ここで、皆さんに、幕末の備中松山藩士で陽明学者である山田方谷の「至誠惻怛」という言葉を贈りたいと思います。この言葉は、「真摯に誠意をもち、さらには慈しみをもって行動せよ。」という意味です。この精神で、方谷はわずか5万石の小藩が抱えていた、今の金額で数百億円とも言われる莫大な借金をわずか7年間で完済したばかりか、逆に数百億円の蓄財に成功したということで有名です。
備中松山城は岡山県高梁市にありますが、岡山県出身の私は小学生の頃から方谷の偉業については繰り返し聞いてきました。当時の時代背景を考えると、この言葉にはもっと深い意味があります。機会があれば一度勉強をしてみて下さい。私は、常に、卒業生と学生は大学の宝であると思っております。卒業後の皆さんの活躍が本学の評価を高め、学生の勉学へのモチベーションを向上させます。この意味において、皆さんの肩には、兵庫県立大学の名誉と未来が懸かっております。また、「卒業」は終わりを意味するものではありません。皆さんと兵庫県立大学との繋がりは永遠です。本学に対して、卒業生だからこそできること、卒業生にしかできないことを是非考えていただききたいと思っております。
私たちは、兵庫県立大学が、皆さんの「学問の故郷」、「青春の故郷」として必要な時にはいつでも戻ってこられる場となるよう、日々努力を続けます。そのため、同窓会組織と連携しながら卒業生に役立つ情報の収集・発信システムも構築しております。教職員一同いつもお待ちしております。本日は、誠におめでとうございます。
以上をもって式辞といたします。
令和3年3月24日
兵庫県立大学 学長 太田 勲