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式辞など

令和4年度学位記授与式 学長式辞

今年は、例年になく早く桜の開花が始まる中、本日、学士、修士、博士の学位を取得され、卒業の日を迎えられた皆さん、誠におめでとうございます。兵庫県立大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。また、この日に至るまで長い年月にわたって、皆さんの成長を支えてこられたご家族、関係者の皆様にも、心からの敬意と感謝の意を表します。

本日、学士1,278名、修士は、専門職学位を含め387名、博士17名、論文博士1名合計1,683名が学位を取得されました。兵庫県立大学として送り出した卒業生は皆さんを含めて合計27,000名余り、前身の旧三県立大学等を含めますと、80,000人を超えました。

本日は、皆さんに直接お祝いの言葉をお届けしたいと、超過密な日程をご調整いただき、兵庫県知事斎藤元彦様にご臨席を賜っております。兵庫県議会議長小西隆紀樣と兵庫県議会文教常任委員長前田ともき様にもご来賓としてご臨席をいただいており、小西様からは後ほどご祝辞をいただきます。本学の後援会、同窓会の代表の方々も、ご多忙の中、皆さんをお祝いするために、ご来賓としてご臨席くださっております。ご来賓各位には衷心より御礼を申し上げます。

また、本学を運営する兵庫県公立大学法人理事長の五百旗頭真先生にもご臨席をいただいており、後ほどご祝辞を頂戴いたします。

学位記授与式は、卒業される皆さんにとって人生の大きな節目の行事です。ご両親やご家族、在学生の方などと一堂に会して、皆さんの門出をお祝いするのが本意ですが、残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響を考慮して、ご父兄、関係者の方々にはご入場をご遠慮いただき、卒業生の皆さんと私たち教職員だけによる式典といたしました。この式典の様子はライブ配信しておりますので、ご家族や関係者の方々にはネットを通して皆さんの晴れの姿をご覧いただいております。

さて、今年卒業される学部生の多くは、大学生活の後半3年間は、「新型コロナウイルス感染症」の影響を受け、様々な制限の中で勉学やクラブ活動などに取り組まざるを得ない仕儀となりました。また、修士、博士課程を修了される方はほとんど全ての在学期間に亘って、キャンパス内での行動や学会活動などが制約される中での研究生活でした。

私たち、大学執行部は、大学教育の真髄は、大学キャンパスというリアルなアカデミック空間で、教師と学生、あるいは学生同士が語り合い、議論し、切磋琢磨する対面授業や部活動にあるという信念で、キャンパス内の規制緩和や対面授業の実施に極力努めてまいりました。本学は、他大学に比べて格段に多い対面授業を実施してきましたが、8度に亘って押し寄せてくる感染拡大の波によって、キャンパスへの立ち入り制限や授業形態を何度か変更をせざるを得ませんでした。

学生の皆さんも、これに応えていただき、感染拡大に注意を払いながらの勉学や研究活動、部活動、ボランティア活動などに励まれ、多くの成果を出していただきました。特に、厳しい環境の中で、所定の単位を修得され、立派な研究成果を挙げて今日の日を迎えられた卒業生の皆さんには敬意と祝意を改めて表します。本当に苦しい日々であったことと思います。環境人間学部の井上ゼミが、オンライン授業が主流であった感染初期に行なったアンケート調査によると、回答学生の実に8割以上が、大学生活に充実感がない、将来が不安である、意欲が湧かず無気力になる、気分が落ち込む、などと答えています。

しかし、この苦しい時期を乗り越えてきた皆さんは、この間、自然の脅威と人間社会の脆弱さを目の当たりにして、自然や人間の生きる意味、人間社会や生命の尊厳等々、根源的なことに思いを巡らせてこられたことと思います。このような経験は、将来皆さんが困難に直面したとき必ず活きてきます。皆さんは、良い意味でも悪い意味でもコロナ世代と呼ばれることになると思いますが、是非良い意味でコロナ世代と呼ばれるようになってください。

一方、このコロナ禍の収束が見通せない中、ロシアがウクライナに侵攻してから一年以上が経過しました。膠着状態が続く中で核兵器の使用まで言及されるようになっており、国際社会は、一歩間違えると深刻な事態に陥りかねない危機的な状況にあると言えます。そして毎日、無辜な市民やロシアとウクライナの多くの若者が尊い命を落としています。多くは、動員令の中で招集され、戦いの大義を理解できないまま戦場の露と消えているのではないでしょうか。

私たちは、いま目にしている権威主義的、強権的政治の危険性をしっかり心に留めておかなければなりません。このような悲劇は、国民の政治に対する無知と無関心が生み出した結果とも言えます。また、その背景には、米国をはじめとする一部欧米諸国などにおける民主主義の混乱や後退が反映しているのではないかとも思われます。行き過ぎた自国ファーストや政党間の対立は国内外の分断を助長させ強権的指導者を生み出す危険性があります。加えて、近年におけるソーシャルメディアの爆発的普及は、意見の対立や政治の分極化を生み出し、海外からのフェイクニュースがさらにそれを加速すると言われています。

皆さんには、本学で修得した幅広い教養と専門知識を活かして、先人の大きな犠牲の下に構築された平和な世界を守っていただきたいと強く願っています。そのために、これからも知識の修得に励み、多くの本を読み、多様な人と交流して、教養を深め、人間的力をしっかり身に着け、本物とニセ物を区別できる高い見識と倫理観を兼ね備えた人になっていただきたいと思っています。

さて、ここまで述べてきた、新型コロナウイルス感染症とウクライナ侵攻は、世界規模で社会に大きな変革ももたらしています。コロナ感染症は、社会の情報システム環境を一変させ、情報通信技術の飛躍的な発展と相俟って社会構造、産業構造から経済活動、社会システムまでを不連続的に変えようとしています。当に社会は大きなターニングポイントを迎えていると言っても過言ではありません。

デジタル庁の設立、電子政府、電子県庁など行政サービスのデジタル化、医療、教育、防災など準公共分野のデジタル化、産業のデジタル化等々様々な分野のデジタル化が急速に進んでいます。これまでは、紙文書等物理資料のデジタル化や業務、プロセスのデジタル化など、いわゆるデジタイゼーションやデジタライゼーションが進められてきましたが、現在は、それらのシステムから得られるデータとデジタル技術を駆使して、各分野の事業モデルを刷新するとともに、組織体制や業務プロセス、組織の文化・風土を変革し、サービスや生産活動、ビジネスなど

の高度化や最適化に繋げるデジタルトランスフォメーション、いわゆるDXの取組が重要になっています。

現在、各分野でDXが声高に叫ばれていますが、その中核を担う学問はデータサイエンスです。本学では4年前に開設した社会情報科学部が、今年初めての卒業生を送り出します。また、2年前に改編設置した大学院情報科学研究科データ計算科学専攻も初めて修士修了生を輩出します。どちらもデータサイエンスを基盤としており、卒業生、修了生は、当に水を得た魚のようにDX社会を先導し、多様な分野で活躍いただけるものと大きな期待を寄せております。加えて、いま、入り口にあるフィジカル空間とサイバー空間を高度に融合したソサエティ5.0の社会での活躍も期待しております。

他方、ウクライナ侵攻は世界のエネルギー問題に大きな影を落としています。深刻なエネルギー不足は、石炭火力発電への回帰や原子力発電の増設、再稼働を誘発しており、地球温暖化対策の停滞や原発の安全性への懸念など、世界が再生可能エネルギーの開発に向けて動き始めていた歴史の針を逆転しかねない状況になっています。しかし、我が国は、2015年のCOP21で採択されたパリ協定の目標に沿って、2050年に「カーボンニュートラル」を実現すると宣言しています。COP21と同じ年に国連で採択されたSDGsも、持続可能な未来を築くために気候変動への具体的な対策を求めています。ここは、しっかり歴史の歯車を前進させる努力をしなければなりません。

省資源国である我が国は、いつまでも海外からの化石燃料に依存するのではなく、脱炭素に向けたエネルギーのパラダイムシフトを先導していく必要があります。エネルギー源を、太陽光発電や風力発電など温室効果ガスを発生させない再生可能なクリーンエネルギーに転換し、産業構造や社会・経済システムを変革し、成長に繋げていくグリーントランスフォーメーション、いわゆるGXを推進していかなければなりません。本学では、そのキーテクノロジーが水素技術であると考え、文理融合体制で水素エネルギーの研究に注力しています。

GXには様々な分野の科学技術、工学技術が必要となります。新しい分野ですので、戦略的なエネルギー政策に基づく開発が求められ、開発テーマも多岐にわたることが想定されます。社会実装等に当たってビジネスチャンスも生まれます。卒業生の皆さんは、先程お話ししたDXに加えてGXにも積極的に参画されて、素晴らしい未来社会を創り上げていっていただきたいと強く願っています。

さて、一昨日は、侍ジャパンがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で米国を破って優勝しました。この「侍」という言葉は、日本人を日本人たらしめる「武士道」の文化を意識していると考えられます。新渡戸稲造によると、武士道の基本は、義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義の七つの徳にあります。

義とは、正義であり、人として必ず守らなければならない道のこと。勇は、義を見てせざるは勇なきなりと言う論語がありますが、正しいことをなす勇気のこと。仁は、相手の痛みに共感し、他者を思いやる心のこと。礼は、他者を思いやる心を義や仁を伴って外に表し、敵を倒した後でも相手に敬意を払い共感すること。誠は、文字通り言ったことを成すことで、どんな小さな約束でも一度言ったことは絶対守ること。名誉は、正しい行動をとり、倫理原則を守り、人間としての義務を果たす、矜持、プライドのこと。忠義は、自分の上に立つ人に対してだけでなく、下の人に対しても常に忠実であること、です。

侍ジャパンの選手達は、試合中も試合に勝利した後も、この武士道に相応しい行動をとっていたように見えました。ほとんどの選手が皆さん方と同じZ世代と呼ばれる年齢層の人ばかりです。最近の学生は就職活動の中で、SDGsやESGに取り組んでいる企業であるかどうかということを重視すると聞いていますが、侍ジャパンの行動心理とどこか通じるところがあるように感じます。このような意味において、今日卒業されていく皆さんに安心して次の時代を託すことができると思っています。

皆さんはいつか産業界や経済界、医療界、あるいは様々なコミュニティなどで、指導力を発揮しなければならない立場に立つことになります。リーダーは、先見性、俯瞰力、独創力をもって、日々的確な判断を下さなければなりません。加えて、リーダーには、異なる意見の人からも信頼される高潔な人格が求められます。常に自らを厳しく戒め、立場を超えて人の意見に十分耳を傾け、他者を理解する広い心を持つことが重要です。課題に真摯に向き合い、公平公正、説明責任の果たせる決断力、これがあってこそ、どのような厳しい決定に対しても組織の人達の理解と信頼を得ることができます。

卒業される皆さんが、それぞれの道で大成されることを心から願っています。フリードリヒ・ニーチェは「脱皮できない蛇は死ぬ」と言っています。いつまでも同じ意見や技術に拘ったり、同じ環境に安住したりしていると、気づいたときには社会から大きく立ち後れることになります。常に新しい技術や考えを学び、環境を開拓し、自己改革を続けることが肝要です。皆さんには、それができる本学で培った素養があります。

卒業生と学生は大学の宝です。卒業生の活躍が本学の評価を高め、在学生の勉学へのモチベーションを向上させます。皆さんの肩には、兵庫県立大学の名誉と未来が掛かっています。

なお、私事ですが、私も皆さんと一緒にこの愛する兵庫県立大学を去って行く時期を迎えました。皆さんにいつまでも誇りに思っていただけるよう、教職員力を合わせて先進的な教育研究の展開と環境整備に努めて参りました。本学が「学びの故郷」として皆さんの心の拠り所となり、いつでも戻ってこられる場となることを願っております。教職員の方々もきっと皆さんの帰りを待っておられます。

最後に、重ねてお祝いを申し上げますとともに、皆さんの未来に栄光と幸多からんことを祈念して式辞といたします。本日は、誠におめでとうございます。

令和5年3月24日
兵庫県立大学 学長 太田 勲

 

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