重要なお知らせ

令和5年2月24日

兵庫県立大学学生の皆さんへ(27)
~学年末を迎え、最後のエールを送ります~

兵庫県立大学
学長 太田 勲

 本日2月24日は、ロシアのウクライナ侵攻からちょうど1年目となります。膠着状態の中で核兵器の使用まで言及されており、国際社会は、一歩間違えると深刻な事態を招きかねない危機的な状況になっています。そして毎日、ロシアやウクライナの多くの若者が戦場で尊い命を落としています。多くは、動員令の中で招集され、戦いの大義を理解できないまま戦場の露と消えているのではないでしょうか。

 私たちは、強権的、専制的政治の危険性をしっかり記憶にとどめておかなければなりません。国民の政治に対する無関心が生み出した結果と言えるかも分かりません。皆さんには、本物とニセ物を区別できる高い見識と倫理観を兼ね備えた人になっていただき、理不尽なことや間違ったことには、誰にでもはっきり「ノー」と言えるようになっていただきたいと願っています。

 一方、新型コロナウイルス感染症は、完全終息の道筋が見えない中で、政府決定により5月8日から「第5類感染症」となります。季節性インフルエンザ並みの取り扱いとなりますのでほとんどの規制が外れ、自己責任で感染防止に努めることが求められます。このことの是非は別として、学生の皆さんは、3年間にわたって、多くの規制の中で学業に努めてこられました。

 特に、現3年生は入学式も挙行できず、いきなりオンライン授業で大学生活が始まりました。入学時から学友との交流が制限されてきた、その3年生が中心となって昨秋大学祭が開催されたことには感動しました。私たちも、大学教育の真髄は、大学キャンパスというリアルなアカデミック空間で、教師と学生、学生同士が語り合い、議論し、切磋琢磨する対面授業や部活動にあるという信念で、規制緩和や対面授業の実施に極力努めてきました。学生の皆さんにも、これに応えていただき、タイミングを計りながらの部活動や勉学、ボランティア活動などに励まれ、多くの成果を出していただいたことに敬意と感謝の気持ちで一杯です。

 さて、学生諸君は卒業や進級の節目となる学年末を迎えました。実は、私も学長の任期を終える時を迎えています。兵庫県立大学は令和5年度に開設20周年を迎えます。前身の旧3大学である神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学を含めて考えますと、最も古い「神戸高等商業学校(神戸商大の前身)」の創立から95周年となります。少し長くなりますが、この機会に、本学の根底に脈々と流れてきた先達の想いの一部を紹介いたします。

 神戸商科キャンパスの一隅に「林檎の園」という学恩を顕彰する石碑があります。碑文は『田村實先生の著書「三つの林檎」というのは イブの林檎 パリスの林檎 およびニュートンの林檎のことである イブの林檎は宗教を パリスの林檎は芸術を ニュートンの林檎は科学を 意識する しかし人間の根源を形成するいまひとつの林檎を無視するわけにはいかない 第四の林檎は ヴィルヘルム・テルの林檎である それは桎梏のなかから人間の解放を主張するものである 世界史は 自由意識の進展である 若人よ 林檎の木の下に結集せよ 1993.11.20 中村萬次』と書かれ、傍らに89の氏名を刻んだ「平成5年11月20日 田村会」なるプレートが置かれています。

 実に哲学的に意味深い碑文です。人間は様々な桎梏(足かせと手かせ、厳しく自由を束縛するもの)によって、その行動や思考が制限されます。そこから解放されることによって、大きな自由な可能性が生まれてきます。皆さんも大小を問わず心の中にある桎梏から自らを解放して新たな可能性を切り拓いてください。そのために勉学に励み、多くの本を読み、教養と専門知識を高めてください。

 姫路工学キャンパスの正門近くの遊歩道の右側には、「志高遠」と書かれた石碑があります。旧姫路工業大学の前身「兵庫県立工業専門学校」の閉校にあたって、その同窓会が寄贈したものです。三国志に登場する諸葛孔明の「志当存高遠」(志はまさに高遠を存し:目標は高く遠くに置きなさい、志は大きく持ちなさい)に由来する言葉で、創設者である初代校長井口直次郎先生の心です。

 石碑は、キャンパス移転とキャンパス大改修に伴う2度にわたる移設を経て現在地に収まっています。後を継いだ姫路工業倶楽部(工学部の同窓会)が、「新生姫路工業大学が、真理の自由なる探究に依って、世界に貢献する大学になってほしい」と母校の発展を祈る気持ちで、大事に受け継いできているものです。学生諸君が先達の心に思いを馳せ、この地を学問の道場として、世界の頂を目指し学業に励むことを期待しています。この「志高遠」碑は、時々の学生諸君の道標としていつまでも歴史を刻んでくれるものと期待しています。

 また、明石看護キャンパス本館のホワイエには、前身の「兵庫県立看護大学」の開設を記念して、等身大のフローレンス・ナイチンゲール像が置かれています。ナイチンゲールは英国の上流社会の出身ですが、19世紀半ばのクリミア戦争(奇しくも現在違う形で戦場となっています)に自ら望んで出向き、その野戦病院の衛生環境を画期的に改善することなどで多くの傷病兵の命を救ったと言われています。彼女は、看護分野における先駆的な役割に加えて、その人となりと知性で多くの人々を魅了しました。

 彼女は、「看護の仕事は、快活な、幸福な、希望に満ちた精神の仕事です。犠牲を払っているなどとは決して考えない、・・・・」と述べ、このような資質を看護師に望んでいたと言われています。まさに人間愛に満ち溢れており、本学の看護学部もこのことをモットーに、ケアをもってケアの専門家を育てるという理念の下で、教育研究を進めています。

 皆さんは、このような環境の中で知(教養と専門知)と技(科学技術力)と愛(人間愛)を磨いています。そして、部活動や地域貢献活動、ボランティア活動などを通して、トータルの人間力を高めています。本学で学んでいる皆さんの可能性は無限大です。無限に広がる世界へ飛び立って行ってください。

 私も、この間、多くの学生諸君の社会的活躍や真摯に学業、研究に取り組む姿を見ることができ、幸せでした。皆さんの大成を心から願って、私からの最後のエールとさせていただきます。ありがとう!

   
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