令和5年度入学宣誓式

 桜花のもと、兵庫県立大学はここに学部学生1,346名、大学院生497名、合わせて1,843名の、爽やかで個性豊かな学友を迎えることができました。

 新入生のみなさん、進学されたみなさん、ほんとうにおめでとうございます。

 若さに支えられた真摯な努力に敬意を表するとともに、みなさんを励まし見守ってこられたご家族や関係者のかたがたに、心よりお慶びを申し上げます。

本日の入学式には、兵庫県知事齋藤元彦さま、兵庫県議会議長小西隆紀さまをはじめ、多くのご来賓のみなさまにご臨席を賜っています。ご来賓のみなさまには厚く御礼を申し上げます。

さて本学の設立団体である兵庫県は、北から但馬、丹波、播磨、摂津、淡路の旧五国から構成されており、北は日本海、南は瀬戸内海と太平洋の3つの海に面し、地域により気候、風土が大きく異なることから、日本の縮図と言われています。

 入学生のみなさんは、この広い兵庫県内各地に散在する、多様性に富んだ9つのキャンパスに別れて勉学に励み、感性を研ぎ、誠実でしなやかな人間力を涵養することになります。

兵庫県立大学は、平成16年、伝統ある神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学の3県立大学が統合し、発足しました。歴史の一番古い神戸商科大学の前身、旧制神戸高等商業学校の創立から数えて94年になり、現在では、6学部、9大学院研究科、5附置研究所、附属中学校・附属高等学校を擁する、全国屈指の公立総合大学となっています。在籍する学生・院生数は現在、約6,500名、これまでの卒業生・修了生は旧3大学を合わせると8万人を越えました。

 新入生のみなさんは所属する学部で、なぜ生きるのかを問う教養教育とともに、どのように生きるのかを問う専門教育を、学問体系に基づき修得することになりますが、本学の特色を活かした教育プログラムとして、学部横断的な3つの副専攻、「地域創生人材教育プログラム」、「グローバルリーダー教育プログラム」、「防災リーダー教育プログラム」があります。所定の課程を修了すれば、それぞれ「ひょうご学志」、「コミュニティ・プランナー・アソシエイト」、「グローバルリーダー」、「防災リーダー」の称号が与えられます。学際的、課題探求的な学びを深め、学部の枠を超えた友人を得ることができます。ぜひ挑戦してください。

本学は多彩な学部・大学院構成に加え、神戸商科キャンパスにある政策科学研究所、播磨科学公園都市に位置する高度産業科学技術研究所、三田市を拠点に県内各地に展開する自然・環境科学研究所、明石看護キャンパスにある地域ケア開発研究所、県立はりま姫路総合医療センター内に開設された先端医療工学研究所の5つの附置研究所を核とする、高度な研究推進能力を有しています。

世界最先端の研究施設に隣接する播磨理学キャンパスや神戸情報科学キャンパスでは、大型放射光施設「SPring-8」やスーパーコンピュータ「富岳」などと連携した教育研究を展開しています。また中型放射光施設「ニュースバル」や、口径2mという国内最大の「なゆた」望遠鏡など、他大学にない大型研究施設を独自に保有し、国際的な共同研究や産学連携の推進に活用しています。

HAT神戸にある「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」や丹波竜で有名な三田市の「人と自然の博物館」、丹波市の「森林動物研究センター」、豊岡市の「コウノトリの郷公園」、淡路島の「淡路景観園芸学校」など多彩な兵庫県施設には、本学の大学院や研究所が併設されており、独創的な研究成果をあげるとともに、市民を対象にした幅広い学びの機会を提供しています。みなさん、機会を見つけてぜひ、本学が誇るこれらの教育研究機関を訪問してください。

さてここで、私たちを取りまく現代社会の動向と大学の役割について少し言及しておきます。私たちは不確実性が高く、将来の予測が困難な時代のなかで、大きな危機に直面しています。 世界の存続を揺るがすような3つのCの頭文字、Conflict、 Climate、 Covid-19。この深刻化する地球的脅威に人間精神はむしばまれ、多くの命が失われ、多大な物質的基礎、すべての生命にとっての生存基盤が破壊され続けています。カオスが時代精神のように写る世界に、大学はどう向き合えばいいのでしょう。

大学の存在理由は、次の時代を牽引する学生のみなさんが、厳しい競争を生き抜くための人間力と深い教養、変貌する時代の要請に応えられる専門的知識と技術を身につけ、自立し、新しい世界を切り拓いていく不断の努力を、教育現場から支えることです。

新型コロナ禍は学ぶ場所を選ばない授業のオンライン化や、世界の大学と結ぶ国際共同教育プログラムの開発を、一気に押し進めました。またビッグデータを駆使した最新のAI技術、対話型AIと呼ばれる新しい言語モデルを使えば、他言語への翻訳は一瞬に終わり、簡単なレポートはおろか、擬似的な論文も苦もなく作成できるようになりました。デジタル知性AIは、学問のあり方も大きく変えようとしています。

自由の余白がない、徹底した管理社会の従順な子羊になることを拒否し、飛躍的に進歩する情報通信技術を、功利性に溺れることなく主体的に活用するためには、課題を自ら考えて整理し、本質を見きわめる、批判的知性critical thinkingを磨くことが不可欠です。また、さまざまなアイディアを着想し、試行、評価しながら、具体的な対案を提示していく、創造的知性creative thinkingも並行して鍛えていかねばなりません。

本学は、多彩な文化的背景をもった学生と隣り合わせの大学生活が送れるような、教育環境を目指してきました。みなさんはぜひ、人々の間に壁を作るのではなく橋を架ける、グローバルで複眼的な思考とアントレプレナー精神を身につけてください。学問を通して自己を成長させ、倫理観を養い、高度な専門的知識をもって社会をよりよい方向に導く、「知」のプロフェッショナルになってください。

大学の2つ目の存在理由は、世界が直面するさまざまな課題の解決に、独創的な研究活動から生み出される先鋭的な科学技術を通して貢献することです。Society5.0社会のなかで、従来の基礎研究、ものづくりを大切に受け継ぎながらも、生物多様性の危機、グリーン・トランスフォーメーション、パンデミック、平和構築といった喫緊の地球的課題に対して、異分野を融合する卓越した学際的研究の推進を図ることが、大学には強く求められています。

社会を変革する科学技術に国境はありません。国内外の学術機関や民間企業との共同研究、産学官連携を世界レベルで推し進め、スタートアップ支援を受けた大学発ベンチャーなどを通して、その成果を広く社会に還元していきます。学知の空間としての大学の社会的役割をみなさんとともにしっかり見つめ、切迫感、危機感を共有し、生き残りをかけたイノベーションを一緒に加速させましょう。

 大学の3つ目の存在理由は、豊かで多彩な未来社会のビジョンを示し、希望を生み出すことです。本学は、SDGsに謳われている"Well-being"、"For the planet"、"Leave no one behind"の考え方を基底に据え、対話をベースに、外部の意見を積極的に取り入れながら、未来を起点とするMission-orientedな創造的改革を進めていきます。国内外のそれぞれの地域や社会がもつ豊かな多様性を失うことなく、友愛の精神の下に結びつき、手を差し伸べ、力を合わせることによってのみ、分水嶺にある現代の、来るべき時代の挑戦に対し、大学は先頭に立つことができます。本日ここに大学人となったみなさんは私たちの誇りであり、ともに歩みを進める同志がふえたことを心から喜びたいと思います。

最後に、学生生活に関して触れておきます。大学はみなさんをひとりの大人として扱い、自分の行動に責任をもつことを求めます。社会の規範を守り、しっかりした自己管理のもとで、溌剌とした学生生活を送ってください。大学生であるからという甘えは許されません。大学時代に得た友人は生涯の友になると言われています。教室や図書館で、海外研修で、クラブ活動やボランティア活動などを通して、互いに切磋琢磨できる多くの学友に出会ってください。

新たに結ばれたみなさんと大学との絆は卒業、修了すれば切れるものではありません。人生100年時代を生涯にわたって学び続けるみなさんを支え、学び直し、リスキリングの機会を提供する最初の一歩が始まったということです。

本学の初代名誉フェローであり、自動車メーカーマツダの代表取締役社長として、当時傘下に置かれていた米国フォード社からの独立を主導した旧姫路工業大学OBの井巻久一氏は、ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェのことば「脱皮できない蛇は滅びる。意見を変えることができない精神も同様である。」を引用し、私たちをいつも鼓舞してくれました。

私たちは未来の熱烈な預言者となるために、脱皮を、羽化を繰り返していかなければなりません。ウイリアム・シェイクスピアは戯曲『テンペスト』のなかで、主人公プロスペローに「吾等は夢と同じ糸で織られている」と語らせました。みなさんが未来に対する悲観主義とは無縁であり、虚妄に惑わされることなく、自由で高貴な夢をもち続けることを心から願っています。

 かけがえのないみなさんとの新しい出会いに感謝の気持ちを込めて、私からのお祝いと歓迎の言葉とします。

 令和5年4月6日 兵庫県立大学 学長 髙坂 誠