令和6年度入学宣誓式

 咲き誇る桜花のもと、兵庫県立大学はここに学部学生1,289名、大学院生493名、合わせて1,782名の、個性豊かな学友を迎えることができました。

 

 厳しい新型コロナ禍の制約の下で弛みない努力を続けられ、晴れてご入学、進学を勝ち取られたみなさんに、大学を代表して敬意と祝福を表します。また、みなさんを支えてこられたご家族や関係者のかたがたに、心よりお慶びを申し上げます。

 

 本日の入学式には、兵庫県知事齋藤元彦さま、兵庫県議会議長内藤兵衛さま、兵庫県議会文教常任委員長増山誠さまをはじめ、多くのご来賓のみなさまが、お忙しいなか、お祝いに駆けつけてくださっています。ご来賓のみなさま、若者の成長を支えてくださった地域のみなさまに、改めて御礼を申し上げます。

 

 兵庫県立大学は平成16年、伝統と強みをもった神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学の県立3大学が統合して発足、本年、創立20周年を迎えました。歴史の一番古い神戸商科大学の前身、旧制神戸高等商業学校の創立から数えて95年にあたり、現在では6学部、9大学院研究科、5附置研究所、附属中学・高等学校を擁する、全国屈指の公立総合大学となっています。在籍する学生・院生数は現在、約6,800名、これまでの卒業生・修了生は旧3大学を合わせると7万人を超えます。

 

 本学の設立団体である兵庫県は、北から但馬、丹波、播磨、摂津、淡路の旧五国から構成されており、地域により気候・風土が大きく異なることから、日本の縮図と言われています。

 

 新入生のみなさんは、この広い兵庫県内に点在する多様性に富んだ9つのキャンパスに分かれて勉学に励み、変貌する時代の要請に応える専門的知識と技術を身につけるとともに、感性を研ぎ、誠実でしなやかな人間力を涵養することになります。

 

 本学には多彩な学部・大学院構成に加え、本学の特色を活かした教育プログラムとして、学部横断的な3つの副専攻、「地域創生リーダー教育プログラム」「グローバルリーダー教育プログラム」「防災リーダー教育プログラム」があります。所定の課程を修了すれば、それぞれ「ひょうご学志」「コミュニティ・プランナー・アソシエイト」「グローバルリーダー」「防災リーダー」の称号が与えられます。学際的、課題探求的な学びを深め、学部の枠を超えた友人を得ることができます。ぜひ挑戦してください。

 

 本学は政策科学、高度産業科学技術、自然・環境科学、地域ケア開発、先端医療工学の5つの分野で附置研究所をもち、加えて、口径2mという国内最大級の「なゆた」望遠鏡や放射光施設「ニュースバル」など、他大学にない大型研究施設を独自に保有、国際的な共同研究や産学連携の推進に活用しています。世界最先端の研究施設に隣接する播磨理学キャンパスや神戸情報科学キャンパスでは、大型放射光施設「SPring-8」やスーパーコンピュータ「富岳」などと連携した教育・研究を展開しています。

 

 森林動物の保護管理や丹波竜で有名な「人と自然の博物館」、豊岡市の「コウノトリの郷公園」、淡路島の「景観園芸学校」、HAT神戸にある「阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター」など多彩な兵庫県施設には、本学の大学院が併設されており、独創的な研究成果をあげるとともに、市民を対象にした幅広い学びの機会を提供しています。みなさんは機会を見つけてぜひ、本学が誇るこれらの教育・研究機関を訪問してください。きっと新たな視点と刺激を得られることでしょう。

 

 大学の存在理由について教育、研究、社会貢献の観点から少し触れておきます。1つ目の存在理由は、つぎの時代を牽引する高度な専門性と深い教養、的確な判断力と国際対話力を有し、自立したしなやかな知性を育てることです。新型コロナ禍は、学ぶ場所を選ばない授業のオンライン化や、世界の大学と結ぶ国際共同教育プログラムの開発を一気に押し進めました。みなさんは学問を通して自己を成長させ、人々の間に壁を作るのではなく橋を架ける、グローバルで複眼的な思考とアントレプレナー精神を身につけてください。

 

 大学の2つ目の存在理由は、世界が直面するさまざまな課題の解決に学際的、独創的、実践的な研究活動を通して貢献することです。科学技術に国境はありません。イノベーションを加速させるためには総合知が不可欠です。産官学連携を世界レベルで推し進め、スタートアップ支援を受けた大学発ベンチャー等を通して、その成果を広く社会に還元していきます。

 

 大学の3つ目の存在理由は、豊かで多彩な未来社会のビジョンを示し、新たな価値と希望を生み出すことです。本学は、SDGsに謳われている"No one left behind"の考え方を基底に据え、人間の自由と尊厳、豊かな多様性を持つ地球環境を守るために、対話をベースとするグローバルな視点から、公共財としての大学の役割を積極的に果たしていきます。

 

 齋藤知事のリーダーシップのもと、県立大学の授業料等無償化等、若者・Z世代を支えるためにさまざまな施策を打ち出している設置者の兵庫県と連携をとりながら、本学は今、他にない、とがった魅力を持ち、世界に通用する学知の空間を目指して、学生ファーストの視点から創造的改革を進めています。新しい風景が生まれます。楽しみにしていてください。

 

 ここで少し現代社会の動向について言及しておきます。みなさんはAIIoTに代表される情報科学技術の急速な進展と、グローバル化のなかでの紛争の激化、また地球的規模で生物多様性の危機が叫ばれる激動の時代に、過去から未来へと続く連続性が揺らぎ、カオスが時代精神のように映る世界に生きています。

 

 DX・デジタルトランスフォーメーションは私たちを取りまく社会環境を一変させました。飛躍的に進歩するAI技術があらゆるところに進出して、人間の優位性を揺るがす時代がすぐそこに来ています。DXは市民参加型民主主義の新たな可能性を広げる一方で、狭量で独善的なディープフェイクやヘイトスピーチが流布し、格差と分断を生み出してきました。

 

 アメリカの作家レイ・ブラッドベリに、近年再映画化された『華氏451度(Fahrenheit 451)』という1953年のSF小説があります。作品には書物が禁制品となり、見つかり次第燃やされる近未来社会が描かれています。焚書は不都合な真実のみならず、記憶や思想、異なる世界へといざなう想像力を封じ込め、自由と多様性を否定する全体主義的な破壊行為です。

 

 ドイツの詩人ハインリヒ・ハイネは1823年の戯曲『アルマンゾル(Almansor)』において、「焚書は序章に過ぎない。本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる」という、ナチス支配下で現実のものとなる警句を残しました。

 

 私たちが未来においても主人公であり続けるためには、科学技術の功利性に目を奪われるだけでなく、氾濫するフェイクを見抜く研ぎすまされた洞察力、批判的知性と、重層的な思考から的確な対案を提示する力、創造的知性を磨き続けねばなりません。検証が困難で客観性をもたない安易なことばに流されることなく、価値の相対主義を越え、真実に近づく努力を惜しまないでください。

 

 ウクライナやガザ、ダルフールという名前を挙げるまでもなく、好戦的な権威主義体制により世界各地で繰り返される戦争やテロリズムは、多大な犠牲者や難民を生み出し、貧困を加速させています。

 

 気候変動や地殻変動もまた、私たちの暮らしや生物多様性に大きな脅威をもたらしています。カーボンニュートラルを基軸とするGX・グリーントランスフォーメーションへの取り組みが進んでいますが、気温上昇を止めるための1.5℃の約束を実現するには遠く、地球は沸騰しつつあります。

 

 国際社会の一致した目標であるSDGsの達成に赤信号を灯しているこれらの危機は、残念なことに、私たち人間が引き起こしたものです。私たちの自由も、平和も、繁栄も、所与のものではありません。

 

 他者の痛みを分かち合い、手を差し伸べることのできるみなさんのやわらかな感性と澄んだまなざしで、私たちを取り囲む壁を崩し、人々が恐怖から逃れ、安心して暮らせるグローバル・ダイバーシティ社会を切り拓いてください。地球の未来に責任をもつ若者として、みずからの力を信じ、新たな一歩を踏み出してください。新型コロナ禍の困難なときにあってもけっしてくじけなかった経験は、これからもみなさんを奮い立たせる力になってくれるでしょう。

 

 大学はみなさんをひとりの大人として扱い、自分の行動に責任をもつことを求めます。社会の規範を守り、しっかりした自己管理のもとで、生きていくための輪郭を、この大学生活のなかで形づくってください。大学は多様な感性を持った他者と出会い、自己を相対化できる場所です。大学時代に得た友人は生涯の友になると言われています。互いに切磋琢磨できる多くの学友に出会ってください。

 

 フランスの作家、パイロットでもあったサン=テグジュペリによる1939年のエッセイ集『人間の土地(Terre des hommes)』のなかに、「愛とはお互いに見つめ合うことではなく、二人が同じ方向を見つめることである」 、という印象的なことばがあります。

 

 新入生のみなさんが学知の空間で知的誠実さを育み、世界の若者と手をたずさえて新たな価値と希望を生み出していかれることを祈念し、今日という記念すべき日をかけがえのないみなさんとともに迎えられたことに感謝して、私からのお祝いと歓迎の言葉とします。

 

 おめでとう。兵庫県立大学にようこそ。

令和6年4月5日
兵庫県立大学 学長 髙坂 誠