2025.08.27
プレスリリース 地域資源マネジメント研究科

初夏に代掻きをするとタガメが飛来しやすい!?
水生昆虫類の保全に適した休耕田ビオトープの植生管理の時期について提言

兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科 博士後期課程(倉敷芸術科学大学 助教 )の渡辺黎也 、同研究科 佐川志朗 教授 、株式会社ウエスコ 久保星、長崎大学大学院博士後期課程 福岡太一、東北大学大学院 高橋真司 技術専門職員 、長崎大学 大庭伸也 准教授 らの研究グループは、休耕田ビオトープ(以下、ビオトープ)において、初夏に代掻きをして開放水面を創出すると、タガメなど一部の水生昆虫類の個体数が増加することを野外操作実験によって明らかにしました(図 1 )。

図1    ビオトープにおいて初夏に代掻きをして開放水面を創出すると、タガメなどが増加する

我が国では作物収入の減少や農業者の高齢化などにより、耕作放棄される水田(耕作放棄田)が増加しており、それに伴う水生昆虫類の減少が危惧されています。この「耕作放棄田問題」の解決策として、休耕田ビオトープ(耕作放棄田を湛水した水域;以下、ビオトープ)が着目されており、それらの保全に有効な管理手法の開発が求められています。

ビオトープは生物の保全を目的としているため、除草剤などの薬剤は基本的に使用されません。そのため、水田に比べて水生植物が繁茂しやすい傾向にあります。我々の先行研究によって、ビオトープや水田、ため池において、初夏(水生昆虫類の繁殖期初期)に植被率(水面を水生植物が覆う割合)が高い水域ほど、水生昆虫類の総出現種数が減少する傾向が確認されていました。飛翔中の水生昆虫類は、水面の水平偏光を認識して水域に飛来します。そこで、「ビオトープにおいて初夏に代掻きをして水生植物の繁茂を抑制し、開放水面を創出すると、一部の種の飛来個体数が高まるのではないか?」と仮説を立て、野外操作実験を行いました。

ビオトープにおいて代掻きを行わなかった2023年には、植被率は水田(平均10%)に比べ、ビオトープ(平均38%)の方が高い傾向にありました。また、初夏に繁殖を行う5種(タガメやコシマゲンゴロウ、ミズカマキリ、コマツモムシ、シオカラトンボ)の個体数は、水田よりもビオトープの方が低く、タガメについてはビオトープでは卵塊や幼虫を確認できませんでした。なお、餌動物の個体数は、ミズムシを除き、ビオトープと水田において差がみられませんでした。翌年、ビオトープにおいて代掻きを実施し、6 月の植被率を水田と同程度(平均10%)まで抑制しました。すると、コマツモムシを除く4種の個体数は、ビオトープと水田において差がみられなくなりました。

仮説通り、ビオトープと水田の植被率の違いが、5種の個体数に影響を及ぼしているかどうかを確かめるため、因果解析の一種(piecewise SEM)を適用しました。その結果、代掻きを行っていない 2023年にはビオトープで植被率が高いことが、間接的に5種の個体数に負の影響を及ぼしていました。一方、代掻きをした2024年には、水田・ビオの植被率に差がなくなり、5種の個体数はビオトープと水田において同等になったため、間接効果もみられなくなりました。したがって、上記5種はビオトープの代掻きによって開放水面を創出することにより、飛来個体数が高まったのだと考えられました。

本研究の結果は、特定第二種国内希少性動植物種であるタガメなどの保全を行う上で極めて重要な知見です。ビオトープは、環境省の認定する自然共生サイトにおいても複数の地域で取り組まれており、これらの管理にも本研究の成果が活用されることが期待されます。

本研究の成果は淡水生態学に関する国際誌『Hydrobiologia』に 2025年8月14 日から早期公開されました。詳細は、添付の資料をご確認ください。

研究詳細

別添資料のとおり

論文情報

  1. タイトル
    Effects of early summer plowing on aquatic insects in fallow field biotopes
    (休耕田ビオトープにおける初夏の代掻きが水生昆虫類に与える影響)
  2. 著者名
    兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科  博士後期課程(倉敷芸術科学大学生命科学部環境生命科学科 助教) 渡辺黎也
    株式会社ウエスコ 久保星
    長崎大学大学院総合生産科学研究科博士後期課程(日本学術振興会特別研究員 DC2) 福岡太一
    兵庫県  小林一清
    東北大学大学院工学研究科 高橋真司 技術専門職員
    長崎大学教育学部/大学院総合生産科学研究科 大庭伸也 准教授
    兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科 佐川志朗 教授
  3. 雑誌・号・doi
    Hydrobiologia
    URL: https://doi.org/10.1007/s10750-025-05949-4

問い合わせ先

兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科  博士後期課程(倉敷芸術科学大学生命科学部環境生命科学科 助教)
 渡辺黎也(わたなべれいや)
TEL:086-440-1060

同時資料提供先

学校法人加計学園倉敷芸術科学大学  入試広報部
〒712-8505 岡山県倉敷市連島町西之浦2640
TEL:086-440-1111

国立大学法人長崎大学広報戦略課広報戦略班
〒852-8521 長崎市文教町1-14
TEL:095-819-2154
Email:kouhou@ml.nagasaki-u.ac.jp

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