「遅い」のに高効率な情報処理技術を開発
生体神経組織の動作を模倣した低消費電力なトランジスタの動作実証に成功
井上悠(産業技術総合研究所・研究員)、井上公(産業技術総合研究所・上級主任研究員)、鬼頭愛(産業技術総合研究所・テクニカルスタッフ)、田村浩人(東京大学・特任研究員(研究当時))、飯塚哲也(東京大学・准教授)、ビャムバドルジ ゾルボー(東京大学・助教)、チェン シャンユ(東京大学・特任研究員(研究当時))、矢嶋赳彬(九州大学・准教授)、堀田育志(兵庫県立大学・教授)、田中剛平(名古屋工業大学・教授/東京大学・連携研究員(研究当時))らの研究チームは、生体神経組織の動作を模倣する低消費電力なトランジスタの動作実証に成功しました。
生物の脳は生活環境での遅い入力信号を効率よく処理することを得意とします。こうした特徴(ゆっくり動作、超低消費電力)を人工素子で模倣することで、超低消費電力な情報処理に道を拓けると考えられますが、これまで両者の特徴を両立させるのは困難でした。今回、固体中に存在する電荷を持ったイオンを巧みに制御することによって、入力信号をゆっくりと時間変化する出力信号に変換する新概念のトランジスタを開発しました。チタン酸ストロンチウムをチャネルに用いたこのMOSトランジスタは、イオン制御を動作原理とすることでシリコンを用いた従来のMOSトランジスタと比べて100万倍以上もゆっくりと動作するという特徴を持ちます。そして、500pWという非常に小さな電力で動作できることを実証しました。非常に長い時定数(入力電圧に対して出力電流が変化する時間スケール)を持つ生体神経組織の動作を模倣できるこのトランジスタの動作実証は、生体のように超低消費電力で複雑な学習と推論ができるエッジデバイスの実現に貢献します。
なお、この技術の詳細は、2024年11月27日(米国東部時間)に「Advanced Materials」に掲載されます。
研究詳細
論文情報
- タイトル
Taming Prolonged Ionic Drift-Diffusion Dynamics for Brain-Inspired Computation - 著者名
Hisashi Inoue, Hiroto Tamura, Ai Kitoh, Xiangyu Chen, Zolboo Byambadorj,
Takeaki Yajima, Yasushi Hotta, Tetsuya Iizuka, Gouhei Tanaka, Isao H. Inoue - 雑誌・号・doi
DOI:10.1002/adma.202407326
問い合わせ先
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
電子光基礎技術研究部門 強相関エレクトロニクスグループ
研究員 井上 悠
〒305-8565 茨城県つくば市東1-1-1 中央第5
E-Mail: hisashi.inoue@aist.go.jp
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