Life & Biodiversity

#コウノトリ #行動生態学 #クモ #節足動物 #昆虫 #ため池 #農村 #地域連携

生物多様性は、自然環境の安定や生態系の維持に不可欠であり、人間の生活や経済にも大きく関与しています。しかし、気候変動や人間活動によって、生物多様性の消失が深刻な問題になっています。兵庫県立大学が取り組む、人と生き物の持続的な繁栄を目指す研究をご紹介します。

コウノトリと人間の両者にとって価値のある野生復帰を実現する

出口 智広准教授

地域資源マネジメント研究科所属(研究者情報はこちら

1990年代以降、世界中で500種を超える動物がかつての生息環境に戻されていますが、このような野生復帰に成功する種とそうでない種が存在します。原因の一つとして、飼育環境に一度入ることで個体の特性やバリエーションに偏りが生じることが挙げられます。そのため、飼育・増殖の過程だけでなくリリース後の追跡調査を行い、どのような個体が野生で上手く適応できるか、一方でどのような個体だと生存・繁殖ができないのかを明らかにすることが重要です。

現在、私が取り組んでいるコウノトリの野生復帰は、2005年から活動が進められるようになり、約20年の歴史があります。アホウドリの野生復帰に関する研究で得た過去の知見を基に、20年間で蓄積されたデータの整理と解析を行っています。解析したデータはコウノトリだけでなく、他の生物の野生復帰にも役立つため、得られた情報とノウハウを広く共有することが大切です。

また、解析結果は研究シーンのみで共有するのではなく、豊岡市をはじめとする地域にも還元しています。地元の行政の委員として環境整備や自然保護の観点でアドバイスを行い、地域の生物多様性の保全に貢献。生き物にとって住みやすい環境作りを行う上で、過度な自然再生は持続可能ではなく、人間の生活とのバランスが重要です。そうすることで、地域の自然を守るだけでなく、人間にも住みやすい環境づくりに繋がると考えます。生物多様性を守る活動は、しばしば生物を中心に考えられがちですが、実際の主役は周辺地域の人々であり、彼らの営みがあってこそ成り立つもの。人と生き物の両者の生きやすい環境が整うことで、例えば観光資源としての可能性が見いだされるなど、産業や農業などの分野にも潤いをもたらし、地域の活気にも繋がります。

研究者であり、地域住民の一人でもある私にとって、生物学的な研究だけでなく、地域への働きかけや学生たちへの教育も重要な役割だと感じています。今後もコウノトリと地域の人々の双方が幸せになれる野生復帰のあり方を追求していきたいです。

拡大する研究

地道な標本調査から新種を発見し、生物多様性の解明に迫る

山﨑 健史准教授

自然・環境科学研究所所属(研究者情報はこちら

私は、世界有数の生物多様性を有するアジアの熱帯地域で、クモ類の種多様性の明らかにするため分類学的な研究を行っています。野外から標本を集めたり、世界中の自然史博物館から標本を借用したりして、まだ「学名」の付けられていない未記載のクモを調べています。形態やDNA情報をもとに未記載と判明したクモは、新種として、世界共通の「学名」をつけて発表します。例えば、2018年には、ボルネオ島に生息する「アリに擬態するクモ」から6種の新種を発表しました。また、クモに限らず、陸上の節足動物の新種発見を目指して、研究しています。地道な研究ではありますが、「新しいものを見つける」という人類の知と文化に深みを与える活動を通じて、生物多様性の解明と保全に貢献していきたいです。


地域住民とともに、ため池のある暮らしの未来を創造する

柴崎 浩平助教

環境人間学部所属(研究者情報はこちら

兵庫県南部は雨が少ないため、古くから、安定的に水を確保するために多くのため池が作られ、集落を基盤とするコミュニティにより管理されてきました。農業用水の提供以外に、ため池が作られたことで様々な動植物が暮らす良好な二次的自然空間が誕生。周囲の水田や水路、雑木林とも連なり農村環境を形成し、豊かな生態系を育みます。しかし、農業の衰退や管理者の高齢化などから持続的な管理が難しい状況に。そこで、管理の基本となる草刈りの担い手の確保など、ため池のある暮らしの未来を創造するために、実践的な研究を地域住民や行政とともに展開しています。今後も、「ため池とそれを取り巻く地域社会の現状をより良くしたい」という地域住民の想いを支え、多様な活動が生まれやすい仕組みづくりを行っていきます。

注目の人 -Person-

コミュニケーション形質に着目し、よりよい野生復帰を目指す

コウノトリは発声器官が発達していないため、上下のくちばしを叩き合わせて音を出す「クラッタリング」という非発声音を用いて、なわばり防衛の威嚇や配偶相手への愛情表現を行います。私はこのクラッタリングに着目し、個体ごとの音の特徴やその機能について研究しています。クラッタリングにおけるコミュニケーション形質の違いが明らかになれば、野生復帰の新しい評価指標となる可能性もあるため、キツツキのドラミングやキジのホロ打ちなど、他の動物の非発声音の事例も参考にしながら調査を進めています。将来は、野生復帰の取組の改善策を提案できる人材として、種の保全に貢献したいです。

 

コミュニケーション形質に着目し、よりよい野生復帰を目指す

白井 あやかさん

地域資源マネジメント研究科 博士後期課程1年

半世紀進展のなかったノミの分類体系を更新する

県立人と自然の博物館内にある研究室で、ノミの分類学的研究を行っています。ノミは衛生害虫として研究が進められてきましたが、国内においては、分類学的な基礎研究は1960年代以降あまり進展していません。そこで、野外調査などを通じて、アライグマなどの外来生物に寄生するノミや、南西諸島に生息するノミなど、これまであまり研究されてこなかった宿主や地域に焦点を当て、日本のノミの分類体系を更新することを目標にしています。ノミと哺乳類の関係性を探り、分布や宿主の違いによるノミの特徴を明らかにすることで、ノミの奥深さを知ってもらえるきっかけになれば嬉しいです。

半世紀進展のなかったノミの分類体系を更新する

明尾 亮佑さん

環境人間学研究科 博士前期課程1年

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