ワサビを食べて健康になろう
ワサビの機能成分とは
辛み成分、それがイソチオシアネートITCです。
ワサビといえば、刺身に付けるあれ、です。その機能性といっても、、という方もおられるでしょう。でも、最近とても注目されている機能性食材なのです。そもそも、ポールタラレー博士が、胃がんにブロッコリースプラウト(新芽)にスルフォラファンが効く、という報告をしたことから始まります。スルフォラファンって何? それは、ITCと呼ばれる構造をもつ物質です。実はワサビにも(スルフォラファンではありませんが似た物質が)たっぷり含まれているのです。ITCはN=C=Sと呼ばれる反応性に富む構造を持っていることが特徴です。
ワサビをすりおろすと、辛みが生じます。これがITCです。また何とも言えない香りも漂います。これもITCに由来します。日本人の食文化を支えているワサビですが、実は日本人の健康も支えていたのです。
ITCが何故、胃がんなどに効果を発するのでしょう。ITCは殺菌作用もあります。すなわち、菌を殺す作用です。これは、我々の細胞にとっても毒性を持っていることを意味しています。毒をもって毒を制する、そんな説明も一部当てはまるのがITCによる生理機能なのです。
ITCによる生理機能の研究は国内外で幅広く行われています。細かな事までわかり始めています。では、何故、我が研究室がそこに参入する必要があるのでしょうか? ただ、他の研究者のまねをしたいだけなのでしょうか? 答えはNoです。
ITCが働くには細胞内のSH基(チオール基)と反応するとされています。このSH基を有するもののなかに、Keap1などの重要な蛋白質があります。これら細胞の情報伝達を司る蛋白質に変化を及ぼしているのがITCの活性発現機構なのだと考えられています。(というストーリーに従ってほとんどの研究者は機構を解明しています)
我が研究室では、SH基だけではなく(そのことを否定しませんが)、アミノ基ともITCは反応するのではないか、またその反応物は安定なため、活躍の足跡(指紋)として機構解明の糸口になるのではないか、と考えています。すなわち、ITCが細胞のスイッチを押すとき、そのスイッチそのもののありかを照らし出してくれることを期待しているのです。
これまでの研究及び共同研究体制
他大学との共同
研究の進行状況
これまで我が研究室ではアミノ基にITCがくっついた構造を徳島大学と共同でNMRなどを駆使して明らかにし、それに対するモノクローナル抗体を作製してきました。現在は、細胞におけるITCの作用点について、二次元電気泳動や免疫沈降法などを駆使して、ドア(作用点、ターゲット蛋白質)の特定を進めています。
岡山大学にはBITCなどについて研究されている研究室があります。その有機化学から分子生物学、細胞生物学まで幅広い知識と研究技術を有しているラボと協力して、今後ともに、共同研究を進めてたいと考えています。
今後の研究の方向
生理機能発現機構の証明:どのドアをノックしているのか?
今後、何を研究するのか?
上記2でも述べたように、現在は細胞を使ってそのメカニズムを調べる所まで進んでいます。これを更に進めていきます。
ITCの興味深い点は、色々な構造のITCがありますが、いずれもその生理機能を発現するための重要なパーツは、ITCたるNCS構造にあります。しかしながら、ITCの種類によって、色々な生理作用が報告されています。では、なぜ、同じ活性発現パーツを持っているのに、作用が異なったりするのでしょう?
おそらく、活性発現パーツ以外の側鎖、と呼ばれるパーツの性質によるのではないかと考えられます。細胞膜に行きやすいのか、細胞質に溶け込みやすいのか、ターゲット蛋白質に寄り添いやすいのか、代謝されやすいのか、様々な理由が考えられます。しかし、ITCと蛋白質の反応は不安定と考えられてきたため、構造の違いによる活性発現機能の差異については、分子レベルではまだ未解明な部分が多いと考えます。
我が研究室では、これまで述べたAITC, 6MSITC, BITC以外に、多くの抗体を作製しており、この抗体を使うことで、分別が可能になります。これを生かし、何故、ITCの種類によって活性が異なるのか(強弱を含め)、明らかにしていきます。
ITCがコロナウイルス酵素を阻害することもわかっていますが、その機構はまだ十分には解明されていません。この点も、チャレンジしたいと考えています。