記念講演「気候変動と国連~SDGsがもたらす未来~」

環境人間学部・研究科では「すべての人に豊かな暮らしと環境を」をコンセプトに掲げ、様々な取り組みを行っています。この一環で本研究科開設20周年記念式典において国連広報センター所長の根本かおる氏をお招きし、記念講演をいただきました。本学部・研究科の理念と通じる内容であるためにここに掲載します。式典全体の報告書は以下をご覧ください。

ふるさと兵庫の皆さんへ

皆さんこんにちはご紹介預かりました 国連広報センターの根本かおるです。今日はふるさと兵庫の皆さんにお話しすること、大変楽しみにしてまいりました。兵庫県立大学の環境人間映画研究科20周年大変おめでたいこととして心より喜び申し上げます。

今年の1月から兵庫県立大学は世界の大学と国連とのつながりのネットワークである国連アカデミック・インパクトにも参加してくださっていて、私たちの仲間に加わってくださいました。国連アカデミック・インパクトは2010年に立ち上がったんですが、今では1500以上の大学世界の大学が入って国連とつながってくださっています。日本でも100もの大学が入ってくださっていまして、国別ではアメリカ、インドについで3番目に多いのが日本となっております。

また、兵庫県立大学はSDGs宣言を発出して、全学的に人間の尊厳そして地球環境の保全に取り組んでいくと、大学生の皆さんを巻き込みながら取り組んでいかれるということ、大変ありがたい心強い宣言をしてくださったと思っております。

私が大学生だったのは80年代です。日本がバブル景気に沸いてどんどんとそういうような風潮が主流を占めていた頃でした。持続可能性にどのように向き合うのかということを学生時代に考えたことはありませんでしたし、それを大学で学ぶということもありませんでした。その後、大学を卒業してから私はマスコミに就職したんですけれども、そこでもサステナビリティというものを取材で取り上げることはありませんでした。企業あるいはメディアのサステナビリティの責任というものを考えることもなかった。

しかしながら、今、地球の限界というものを目の前にして、地球そして人類のサステナビリティを考えずにはいられない。どんな分野に皆さんが進まれようともこれなしには成り立たないマストアイテムになってきている。そういうふうに思っています。For People for PLANETという標語をよく国連では口にしますけれども、まさにピープルそしてプラネットは一蓮托生です。そのような中で若い皆さんに世界を、そして人類を将来につなぐ学問を教えてくださっている兵庫県立大学の皆様に対して心から敬意を表するものでございます。

さて今年、世界人口は80億人を超えました。11月15日に80億人に達しました。振り返ってみると今年は大変な年でした。先ほど、五百旗頭理事長からロシアによるウクライナへの侵攻・侵略の話がありました。ロシアが公然と核兵器の使用を口にするようになって核兵器の使用というものが、抽象的な脅威ではなくて現実の脅威として感じられになってしまった。そして不信、分断、対立、亀裂、そういうような空気が社会を覆うようになってしまっている。そういう年でございました。

そのような中でのSDGsです。太田学長がおっしゃられたように来年は15年間のSDGsの実施のちょうど折り返し地点、8年目になります。今一度 SDGsの実施にエネルギーと関心を注入していく、そういう大変大切な年になります。また、日本にとって来年は外交の年です。G7議長国です。そして、来年1月から2年間、国連の安全保障理事会の非常任理事国になります。12日には法の支配というテーマをもとに公開討論を日本が議長国として行う。そのような外交のリーダーとしてこの世界の様々な課題を牽引していく立場になっていきます。

私は兵庫県神戸市の出身ですが、仲間の国連職員を見ていますと圧倒的に関西人が多いんです。今日は本当に若い学生の方々がこの会場に大勢いらっしゃってくださっていることを嬉しく思うんですけれども、世界には不条理なことが満ち満ちています。その不条理なことに怒りもありますが、それを笑い飛ばすくらいのエネルギーがあって初めてそれを乗り越えて、そして世界を引っ張っていくことができる。関西人の気質というのはそういったグローバル社会に打って出る上でとても大きな資質なのではないのかなと思っております。

国連は193の加盟国から成り立っている組織で、国連職員も国籍、民族、宗教、様々な人たちが集まって国連憲章に代表される価値、国際の平和と安全の維持、人権の推進そして持続可能な開発の推進、そういった御旗のもとに集っているわけです。人は違っていて当たり前と、多様性に富むそういった組織こそが国連だと思っています。兵庫県はもともと人、もの、そして文化の交差する交流の活発な地域でございました。そういった兵庫の気質というものが国際社会を考える上で大きな資質になるものと信じております。

国連広報センターとは?

今日は気候変動と国連SDGsがもたらす社会、未来ということをテーマにしてお話しするわけですけれどもその本題に入る前に、国連広報センターの仕事を役割というものをちょっとお話しさせていただきたいと思います。国連と聞いてまず皆さんが頭に浮かべられるニューヨークのイーストリバー沿いの平べったくそして背の高いビルがありますけれども、国連広報センターは国連本部にとっての日本における出先の事務所なんですね。平たく言うと国連にとっての日本における大使館のようなそんな役回りをしております。

国連には6つの公用語があります。アメリカの英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、中国語、アラビア語と、この6つの言葉であれば国連の公式文書というものは自動的に翻訳されて世界に発信されるんですけれども日本語はそうではない。そういう中ですべてを訳しきれませんけれども、この情報こそは日本の方々に届けたい、あるいは知らなくてはいけない、そういったものを私たち国連広報センターが目利きになって日本語化して発信し、初めて日本の方々に国連でどういう議論がなされていてどのような活動をしているのかということを知っていただくことができる、そういった役回りです。

また日本には、およそ30の国連機関があります。神戸にも3つの国連の事務所があるんですね。WHO神戸センター、国連防災機関の神戸事務所、そして国連人道問題調整事務所、こういった3つの事務所が兵庫県のお膝元にございます。私たちの事務所は東京の国連大学本部ビルの中にあります。国連大学というのは国連にとっての研究機関でして、日本に本部機能を持っている唯一の国連の組織です。そこに事務所を構えていまして、下記写真の左上は、私たちの事務所でインターンシップをしてくれている学生の皆さんの写真です。常時、3〜4名の大変熱心に国連そして国際的な課題を考えてくれる学生・大学院生のインターンを置いています。

また左下の写真は、日本を訪問した際のアントニオ・グテーレス国連事務総長ですけれども、彼が語らっているのは学生のインターンの人たちです。国連の国連広報センターは事務総長をはじめとして、国連の幹部の受け入れということも担っておりまして、その際には、学生のインターンたちにもプログラムづくり、そしてイベントの運営などで手伝ってもらって、そして事務総長と直接語らう場面というものも設けるようにしております。このような役割を務めているのが国連広報センターなんですが、同時に、29の国連のファミリーを広報発信という場面で束ねるという調整役もしております。

MDGsからSDGsへ

その29の国連の機関全体にとって非常に重要なのが今日のお話の中心課題でテーマでありますSDGs、そして気候変動です。それは国連システム全体が避けて通れない1丁目1番地として取り組んでいる課題でございます。これは皆さんよくご存知のことかもしれませんけれどもちょっとだけおさらいをさせてください。SDGsの基本情報です。もともと、新しいミレニアムに入ったところで、太田学長が触れてくださったミレニアム開発目標MDGs、ミレニアムディベロップメントゴールズですね、これが2015年を最終年として作られました。主に、途上国の社会開発課題に関する目標でして、先進国にも関係はありましたけれども、それはあくまでも先進国が途上国をODA中心に協力して支えていくという文脈での関わりで、必ずしもその先進国の国内課題についてメスを入れるようなものではありませんでした。

8つの分野にまたがる目標で2015年を目指して引っ張っていったわけですけれども、新しいミレニアムに入ってから、一つには気候変動の課題が深刻化していった。そしてグローバリズムが、もちろん概ね豊かさをもたらしてはいるんですが、豊かな人たちをさらに豊かにして、そして取り残されている人たちをさらに取り残す、そういった結果も生んで格差が拡大してしまった。そして紛争が増大してしまった。そういう全体状況があって、そして途上国の社会開発課題という部分でも大きな積み残しがあった。そして気候変動などは、これは先進国が先陣を切って責任を果たしていかなければとても解決ができない。そういう先進国が自分ごととして担ってもらわなければいけない。そういう課題もどんどん深刻化していったわけですね。

そして、2015年 MGDsミレニアム開発目標が最終年を迎えるにあたって、それでおしまいにしてしまっていいんですか? そういった議論が2012年から深まって3年かけて世界中でコンサルテーションをして、MDGsの後継としてSDGs、持続可能な開発目標を含む2030開発アジェンダというものが出来上がりました。それが採択されたのが2015年9月の国連総会でのサミットの場であって、そして2016年の1月1日から実施が始まっていった。目指す最終年は2030年です。

SDGsのポイントは、つなげて考えること

国連広報センターは、このSDGsを日本の方々に普及していく上で、脱タコツボ化というものを唱えてきました。それはどういうことかというと、これまでもある一定の分野、例えば教育とか健康とかそういった分野ごとの世界目標というものはありましたけれども、これだけ幅広い環境・経済・社会、全てを統合する目標が途上国もそして先進国も巻き込む形でできた、というのは初めてのことだったんですね。統合力こそがSDGsの力です。

そして先進国と途上国を分けて考えるのではなくて、つなげて考える。そして私たちの足元の課題とそして世界レベルでのグローバルな議論、それをつなげて考える。先ほど姫路市長が、グローカルという言葉を使ってくださっていましたけれども、まさにそうです。ローカルな課題とグローバルな議論、それを結びつけて訴えていく。

そのためには、例えば企業、金融、教育、あるいは自治体、そういった部門ごと、分野ごとにタコツボ化してしまうのではなく、大胆につなげてプロデュースしていくことが非常に重要である。これは言うは易く行うは難しなんですけれども、もうとにかくいろいろな業界、いろいろな分野の方々のところに行って、SDGsに目を向けてほしいということを唱えてきました。経団連をはじめとする経済団体にも行きました。最初はとってもつれなかったです。誰も見向きもしてくれませんでした。

早く動き始めた日本政府、そして金融界

しかしながら、政府の動きが早かったんですね。これは2016年、つまりSDGsの実施の最初の年です。G7サミットを主催したのは日本で、伊勢志摩のG7サミットが開かれる前に、これはSDGsが議論される最初のG7サミットになるということで、総理大臣を本部長にして、あらゆる閣僚が議論に参加するSDGs推進本部というものを作ってくださったんです。私はその下にSDGs推進円卓会議という実務者レベルの会合があるんですけども、そこの構成員として議論に加わってきました。まずは、すべての省庁にまたがる会議体というものを日本がいち早く作ってくれて、これは世界の様々な加盟国に先駆けた動きだったと思います。

また、金融の動きも早かった。2015年に国連の責任投資原則に、世界で最大の年金ファンドでありますGPIFが署名をして、今でこそESG投資という言葉が一般化していますけれども、エンヴァイロメント、ソーシャル、そしてガバナンスに着目した形で投資をしていくんだということに名乗りを上げてくださったわけです。ガリバーのような年金基金が、それに関わってくださったということもあって日本の金融界が足並みを揃えた。

お金は企業の事業活動の血液のようなものです。それで企業も自分たちの資金調達のためにはやはりSDGs、ESGに目を向けなければいけないということになった。また同時に、自治体に関しても内閣府が中心になってSDGs未来都市制度、そしてSDGs未来都市のその推進事業に補助金をつける。そういった制度もできていった。そして教育。もちろん大学教育もありますけれども、学習指導要領にSDGsが盛り込まれて今では小中学生はSDGsを学校で学ぶようになってるんですね。

こういった様々な取り組みがあって関係者の方々が熱心に取り組んでくださって、今のSDGsの普及があります。これは、数字にも表れてます。電通が毎年1回、4月にSDGsがどれだけ認知されているのかという調査結果を発表していますけれども、最新の調査結果、2022年の4月に発表されたものですが、86%の人たちが何らかの形でSDGsは知っていると答えるまでになっています。

先週も私のボスにあたる国連グローバルコミュニケーション局のトップが訪日したんですけれども、政府関係者そしてメディアの関係者にこうはっきり言いました。「日本ほど、SDGsの輪っかのマークがいろいろな場面に満ち溢れている国はない」と。これは、まず認知があって初めて問題に取り組むアクションが起こっていくわけですから、大変、大きな財産であるということです。

ただし、この電通調査を始め様々なSDGsの関する世論調査ありますけれども、問題もあります。それは知っているだけで終わっている人たちが結構いるということです。そして実践までなかなか行ってないというところですね。これは、先ほどのその電通調査の中で実践意欲が高い層、そして理解・共感のみにとどまる層の割合を示しているものですけれども、私たち国連広報センターをはじめSDGsに取り組んでいる関係者にとってはこの理解・共感にとどまる層をどれだけ実践層に持っていくことができるのか?そこにかかっていると思っています

私たちが直面する困難~トリプルC

現在の状況認識ですけれども、今はまさに歴史の転換点にいるものすごい速さで世界が動いているというふうに感じております。コロナは、すでに始まってパンデミックが始まって、もうすぐ3年になろうとしていますけれども、すでに世界で 650万人以上の命を奪うに至っています。そして気候危機は、例えばパキスタンでは国土の3分の1が水に浸かるほどの大洪水が起こってしまって、世界のその脆弱性に拍車をかけるまでになっていると。そしてウクライナでの戦争。これは、特に国際の平和と安全に対して責任を担っている安全保障理事会の常任理事国の一つが国連憲章を公然と違反して他国に攻め込む。平等、その不可分・不可侵性というものを脅かしている。そういったこれまでは見られないようなことが今、現実の物語として起きてしまっているわけです。私たちが経験している2020年のコロナの世界的大流行、そして今年2月24日のロシアによるウクライナ進行。これは、後の世界史の教科書そして現代社会の教科書にしっかりと記されていく、そんな年だと思っています。

若い皆さんは、まさにそうした時代を学生として生きていらっしゃるわけです。これを、その分断あるいは不信ということで、ますますゼロサムのゲームとして、対立軸に、溝に、陥っていくのか、それともやはり国際協調・連帯あってこその世界なんだということで乗り越えていくことができるのか。私たちの力、そして国連の力というものが試されている、そんな時代局面にあるんだというふうに思っております。

ウクライナでの戦争は、始まってほぼ10ヶ月になるわけですけれども人口の1/3にあたる1400万人程度の人たちが国境を越えて難民になるか、あるいは国内で別の場所に安全を求めて避難している。そういった状況にあります。人口の40%が支援を必要としている。こういった紛争、武力衝突があった時に一番最初に影響そしてしわ寄せを受けてしまうのは罪も責任もない民間人の人たちです。今回のこの戦争というものは世界の穀倉地帯で起きている戦争だということです。日本でもその物価が上がっています。食料価格が上がっています。しかしながら、途上国でウクライナあるいはロシアからの輸入穀物・食料に頼っている国々の打撃は非常に大きいものがある。そしてロシアは肥料の原料となるアンモニアの輸出もしているわけですね。そしてもともと債務不履行に陥りかけている途上国が、このグローバルな影響を受けて、さらに債務危機の債務不履行に近寄ってしまっているという状況があります。

そして、そうしたその紛争をさらに拍車をかけているのが気候危機です。下記写真の右上、これは、ソマリアというアフリカの角の一角にある脆弱な国なんですけれども、今、飢饉の一歩手前です。その下の写真は、パキスタンの洪水の写真ですけれども、8月の末から、気候変動の影響もあって国土の3分の1が水に浸かる状況になってしまったわけですが、未だに水が引き切っていませんで、ピーク時には3000万人を超える人々が避難していました。今でも数十万人の人たちが避難状況にあります。

人を殺すには、武器はいらない・刃物はいらないと言います。言葉だけでも人を死に追いやることができます。コロナの時、不正確あるいは虚偽情報というものが飛び交いました。今はソーシャルメディアSNSが発達していて、誰でもその虚偽情報あるいは誤った情報というものをどんどん拡散する担い手になってしまうんですね。実際に、根拠のない情報、例えばニンニクを食べればコロナを防ぐことができるとか、あるいはコロナワクチンの接種を受けると妊婦は非常に危険な状態に陥ってしまうとか、科学的な根拠に乏しい情報が世界を駆け抜けました。だいたい、正確な情報あるいは科学的な根拠のある情報というのは退屈なんですね。正確さ・正確性を期して伝えようとするといろいろな但し書きがある。しかしながらドキッとするスキャンダラスな、そして人々のエモーションに訴えるような情報というものは人々のアテンションをすぐに勝ち得ることができて、それでSNSをやっておられる方々にどんどん拡散してしまう。

だからこそ国連は、WHOとも連携をして2020年のコロナ危機が始まった当初からベリファイドというキャンペーンを立ち上げて、科学的に根拠のある情報そして分断ではなくそしてヘイトではなく差別ではなく、そうではなくて人々をつなげる。そして連帯を醸し出す、そういった情報を提供するキャンペーンをしてきました。

コロナの影響が、どれだけ世界の貧困撲滅の戦いに影響があったのか。下記の画像は、国連環境計画UNDPが毎年出している人間開発指数の推移です。人間開発指数というのは、ただ単に経済的な豊かさではなくて、経済そして教育そして保健というそして暮らし向き、こうした側面を指数化して出しているものなんですけれども、指数を発表して30年の歴史があります。その中で初めて2020年大きく落ち込みました。2008年から9年にかけてのリーマンショック・グローバル金融危機の時でさえもこの人間指数は、ずっとあの上向き状態だったんですが、あの2020年は大きく落ち込んでしまって、これは、世界の貧困撲滅の戦い4年分、後戻りしてしまったと言われています。2021年、上向きになりましたけれども、2022年またウクライナ戦争が勃発して、今年はもう一度下がってしまうのではないかというふうに見られています。

世界の状況、トリプルC、コロナはCOVID-19と言います。そして気候変動クライメットチェンジ。そしてウクライナ戦争に代表される紛争コンフリクト。いずれも、Cで始まる言葉ですけれども、このトリプルCを受けてSDGsは大打撃を受けているわけです。

各ゴールの現状

〇ゴール1:貧困をなくそう
個別の目標の状況について少し触れたいと思います。ゴール1は貧困撲滅に関するSDGsの1丁目1番地にも当たる目標ですけれども、貧困も含めてのその進捗というものが4年分、後退してしまった、そういう状況がある。しかしながら、それでしぼんでしまうのではなくて、これまでのトレンドでどれだけのことを世界が成し得てきたのかと、今一度目を向けていただきたいと思っています。

1990年には世界の貧困率というものは、36%でした。それが、2015年にはこれ10%程度にまでなっているんですよね。これだけトレンドとして貧困を削減することができた。やればできるというところです。もちろん今しぼんでしまったところがありますけれども、もう一度テコ入れをしなければいけない。

〇ゴール2:飢餓をゼロに
今、飢餓人口というのは紛争そしてコロナそして気候危機という、先ほど申し上げた3つのCです。その打撃を受けて少なくなりかけていたのがまた増えています。今、世界人口は80億人ですけれども8億人を超える人たちが飢餓に直面している。ウクライナ戦争が世界の穀倉地帯で起きているということがさらに輪をかけています。

しかしながら、1990年には世界の飢餓人口は世界人口のおよそ4人に1人だったのですが、それが2019年には13%程度の前になっている。今で10%です。この飢餓撲滅のトレンドをもう一度テコ入れをして進めていく必要がある。

〇ゴール4:質の高い教育をみんなに
これは学生の皆さんに大変関係の深いゴールです。コロナがあって、世界的に学校が休校になりました。大学も休校になってしまった。ピーク時には、学校に通う生徒、そして大学に通う学生の9割に上る16億人が学校そして大学に行けなかったという状況があります。今はもちろん、再開して状況は良くなっていますが、問題はその時ドロップアウトした途上国の中でも、女の子はもう二度と学校に戻れないということです。家庭が貧困の打撃を受けてしまって、そうすると一番に家計を支えるために働かされるのは途上国では女の子たちです。そういう状況がある。

しかしながら、全体的なトレンドとしてはその初等教育への修学率が70年に7割だったのが、2018年には9割程度になっている。教育というのは未来への投資です。そこにもう一度、テコ入れをしようということで、今年の9月教育改革サミットというものが国連総会の場でも開かれました。

〇ゴール5:ジェンダー平等を実現しよう
女性は、そして女子は世界最大のマイノリティと言ってもこれは過言ではないのではないのかと思います。もちろん企業を、そして様々な組織で決定権のある立場につく女性の数は増えてはいますが、まだまだ少ない。政治の場を見ますとジェンダー平等を勝ち得るには世界的に見るとまだまだ40年かかると言われています。今、世界の国で上下院ある場合は、下院の方で見ますと女性の議員が占める割合は26%、4人に1人です。

日本はどうでしょう。衆議院での女性議員の割合は1割、10%です。日本にとってはこのジェンダー平等というのは非常に大きな課題の残る目標です。私は国連職員の立場としては、国の一つ一つのその加盟国の状況についてコメントをするのは差し控えているんですが、ジェンダー平等は本当に日本に頑張ってもらいたいと思います。

下記の写真は、先週私のボスに当たるグローバルコミュニケーション担当の事務次長が訪日して、大阪関西万博担当の中谷副大臣を表敬した時の写真です。副大臣は男性です。それ以外、国連側はみんな女性です。意図したわけではないんですが、たまさか、SDGs担当、あるいは機構コミュニケーション担当、そういった立場にあるチーフたちを東京に出張に来てもらうと、こういう状況になったんですね。これは国連では珍しいことではありません。

もちろん、男性も入れてジェンダーバランスを保たなければいけないとも思いますが、でも女性、今日は、女子学生の方々もこの会場には大勢詰めかけてくださっています。ぜひリーダーシップを取るような役割を、どんどん手を上げてチャレンジしてもらいたいなと思うんです。その経験が皆さんのこれからの血となり肉となり肥やしになっていくと思いますので、ぜひ、女子学生の皆さんには同じジェンダーだからと申し上げるわけではありませんけれども、いろいろな役回りを率先して担っていってほしいなと思っております。

〇ゴール13:気候変動に具体的な対策を
今年はエジプトのシャルム・エル・シェイクで行われたCOP27。もうCOPも27ですね。毎年、毎年、開いてここまで来ているわけなんですけれども、温室効果ガスの排出は全く減ってません。このまま行くと、今世紀末には世界の平均気温の上昇2.8度上昇してしまうと見られています。日本でもこの夏、連日、酷暑の日々が続きました。それから世界ではパキスタンのような例だけではありません。ヨーロッパも、ロンドンで40度を超えるような暑さがあって、山火事が相次いで、アメリカでもそうです。山火事が収まらずに、カリフォルニアなどは、この夏、本当に多くの山火事が起こっていました。今、地球の平均気温は産業革命前と比べると1.1度の上昇なんですね。2.8度の上昇どうなるでしょう。これは、皆さん、そして皆さんの子供、孫そしてひ孫、将来世代に私たちの豊かな暮らし、そして地球をつないでいくためには絶対に取り組まなければいけない課題なわけです。

でも、今や世界の電力は3割は、再生可能エネルギーによるものなんですね。それから今、太陽光発電は大きく価格が下がって85%も価格が下がっている。それから国際エネルギー機関の最新の発表では2025年には再生可能エネルギーは石炭によるそのエネルギーを大きく超える。そういう局面にまで来ている。つまり、やればできるという部分もあるわけです。日本が率先して、世界のGXを牽引していく、それぐらいの気構えで向かっていくことが必要だと思います。

中間地点。さらなる推進のためのテコ入れ

2023年。これはSDGs推進の中間地点でありまして、国連総会の場では、4年に一度開かれる首脳級のSDGsサミットというものを開いてSDGs推進の野心をさらに高めてテコ入れをしていくという動きがあります。そして同じく9月国連総会で世界の首脳がニューヨークに集結した際には、今一度、気候変動対策への野心を高めるための「クライメットアンビションサミット」というものを国連事務総長が開くことになります。そして、世界のそのマルチラテラリズム、国連を中心とした多国間主義をもう一度息を吹き込んで再生していくための「未来サミット」というものが2024年の9月に開催されます。これも事務総長の呼びかけで開かれることになっているんですけれども、この多国間主義・多元主義というものは、SDGsが終わる2030年を超えてずっと続いていくものです。ポスト2030をめぐる議論というものが、この2024年の9月の未来サミットの場で行われて、未来宣言デクラレーションオブフューチャーというものが採択される。その成果文書をめぐる交渉というものもすでに行われています。

この未来サミットのベースには、昨年の9月に国連事務総長が発表したOur common agenda、私たちの共通の課題という未来に向けた提言集というものがあります(下記写真)。この中で大きな柱になっているのが、若者を議論の場、そして交渉の場に、というものです。ただ後付けで若者たちに参画してもらうというのではなくて、国連事務局の中にきちんとユースオフィスというものを作って、気候変動もそう、SDGsをめぐる議論もそう、そして障害者をめぐる議論もそう、ジェンダーをめぐる議論でもそうです。あらゆるその交渉そして議論の場に若者の参画を制度化するということが大きな柱の一つになっています。

今年の7月、大変嬉しい動きがありました。それは、国連事務局の中でユースオフィスというものを作る。それを国連総会が決議して決定したということです。そうなると国連の通常予算の中でもちゃんとユースオフィスに使える予算というものが割り当てられて、若者たちが交渉の場にinstitutionalizeされる形で参画する。後付でお呼びするとかそういったことではないんですね。もうそれが制度化されるようになります。それはすでにもう国連総会で決定されたことです。

ウクライナの問題に国連は何ができるのか

ウクライナ戦争を巡っては国連は大変な批判にさらされました。2月24日にロシアはウクライナに侵攻したわけですけれども、国連安全保障理事会は手も足も出なかった。Unanimous vote(満場一致)による断固とした行動が取れなかったわけです。それは拒否権を持っている常任理事国であるロシアがその戦争の当事者であるというところで全く機能しなかった。そういった中で、国連どこにいるんだ、国連何している、国連は無用だ、不要だ、そういう議論が日本でもありましたし、世界でもありました。それは現実です。

しかしながら、その現実で根を上げてしまうのではなくて、安保理が動かないのであれば、じゃあ他の道はないのか?そこを追求していったわけです。それは国連事務総長も行います。また加盟国も行います。そして様々な専門機関、それから国連機関も行います。一つ、歴史的なことがありました。それは平和のための結集決議というものが国連総会でありました。この平和のための結集決議というのは、安保理がにっちもさっちもいかなくなった時に緊急特別会合を開いて採択しました。もちろん総会決議というものは拘束力はありません。きれい事と言われてしまうかもしれない。でも、国際世論というものを作っていく上では非常に大きいものだったのです。

安保理の要請によって国連総会が平和のための結集決議に基づく緊急特別会合を40年ぶりに開くことができた。そこでロシアによるウクライナ侵攻というものを非難する決議を圧倒的な賛成票で可決することができた。その後も何度もこの緊急特別会合は会合を重ねていって様々な決議を出して可決していきましたけれども、国際世論というものを作る上では非常に大きな役割を果たしました。

それからチェルノブイリ原発そしてザポリージャ原発。ウクライナにはたくさんの原発があって、ロシアからの攻撃で安全運転という部分で非常に懸念・憂慮をされる状況にあります。そういう中で国連の専門機関であるIAEA国際原子力機関というものがあります。本部はウイーンにあって、以前は日本の天野之弥さんという外交官出身の方がトップを務めていた時代もありますが、そういう日本とも大変関わりの深い専門機関が、安全が脅かされている原発に専門家たちを駐在させました。これには大変意味があります。ロシアが好き勝手できないわけなんですね。そういう体を持ってして、そのプレゼンスを持ってして、安全を担保しようということも行っています。

また、国連難民高等弁務官事務所、私の元々いた組織ですけれども、UNHCRをはじめとするユニセフであったり、国連世界食糧計画であったり、国連の人道援助部門はウクライナ国内そしてウクライナの周辺国に大規模なオペレーションを展開して、ふるさとを追われる人々そして紛争の影響を受ける子どもたちを支援している。そして、事務総長自身も、事務総長に与えられた権限として紛争を、当事者たちを仲介するという活動を、身を呈してやっているわけなんですね。今年の4月には、ロシアを訪問してラブロフ外相そしてプーチン大統領とも会談をした。そして、すぐその後ウクライナに飛んでブッチャーの街をこの目で見て、それと同時にゼレンスキー大統領とも膝詰めの談判をした。そういうところからですね、皆さん覚えていますか? マリオポリの製鉄所の地下に、民間人を含めて人々が閉じ込められていました。その人たちの脱出ということを事務総長の仲介で、国連は国際赤十字委員会と一緒に行うことができた。

また食料価格が今年の2月以降、大きく高騰したわけなんですけれども、ウクライナの食料を海上輸送できるように、ロシアそしてウクライナに対して国連事務総長がトルコのエルドアン大統領とともに交渉をして、7月の末に黒海穀物イニシアチブという黒海沿岸のウクライナの港から穀物を輸出すると、海上を輸送するというそういう枠組みを、合意を取り付けることができました。

そういったこともありまして、下記画像のグラフはFAO食料農業機関のフードプライスインデックスというものなんですけれども、今年の初め大きく高騰した食料価格が7月下旬のその合意とともに、大きく動いて下がって、今、穀物価格、食料価格が落ち着きつつあるという状況です。この黒海穀物イニシアチブを通じてすでに1300万トンレベルの食料をウクライナの港から輸出することができました。また国連は、これと同時にロシアともロシアの食料そして肥料の原料となるアンモニアなどを輸出できるように国連が仲介します、ということも合意しており、ヨーロッパの港に留め置かれていたアンモニアを、ようやくロシア産のアンモニアを輸送再開することができています。

どうせ、で諦めてしまうと何も生まれない。悲観するでもなく楽観するでもなく、決意・デタミネーションを持って、誠意を持ってオネストブローカー、中立な立場、不偏不党の立場から仲介する、そういう身を呈しての事務総長の働きかけがあってようやく実現していったというところがあります。

気候の地獄へのハイウェイ

もちろんオープンファイア(Open fire)の元、行われる戦争もあります。しかしながら、残念ながらウクライナでのその戦争をはるかに超える規模で気候危機が進んでしまっています。これは、期間・スパンとしてもそして規模としても、ウクライナ戦争そしてコロナというものをはるかに超える規模で、すでに世界の平均気温を、世界が合意しているように1.5℃の上昇に抑えるためには、2050年頃までに温室効果ガスの排出をネットゼロ・エミッションにする。そのためには、より近い目標として2030年までにほぼ半減させなければいけないわけなんですが、今の調子で行くと温室効果ガスは10%増えてしまうんですね。2030年までに増えてしまいます。

国連事務総長が今週発表されたイギリスの科学史ネイチャーの選ぶ「今年の10人」の一人に選ばれていますけれども、やはり脆弱な立場に置かれている国々、人々のために、気候変動を対策に向けてですね、野心を、そして行動を、呼びかけるその声が、認められてネイチャー誌の「今年の10人」に選ばれました。COP27の場面でも、私たちは気候の地獄へのハイウェイをまだアクセルに足を置いたまま突っ走っている、というふうに表現していました。そして私たちの地球は、未だ、緊急治療室にいるというふうにも表しています。1.5℃目標。これは、多くの脆弱な国々そして将来世代にとっては人々の生死のかかった目標で、単なる目標ではないんだと。生き死にがかかっている目標なんだ、というふうに訴えています。

1.5℃目標にむけたメディアとの連携

この認識が、私は国連広報センターの仕事をして日本の世論を見ていて思ったこととして、SDGsのニュース、SDGsが知られているのに比べて1.5度目標のことが知られていないと、知られなさすぎじゃないかと思いました。このためには発信力を持ったメディアの方々と一緒になってこの1.5℃目標の意味、そして何をしなければいけないか、ということを伝えてもらわなければいけないと考えていました。

国連には、SDGsに熱心に取り組むメディアとの SDGメディアコンパクトというものがありまして、今、世界で300のメディアがこれに加わってくださっているんですけれども、190が日本のメディアなんですね。なんと6割が日本のメディアなんです。メディアの皆さん、日本のメディアの皆さんと共に、1.5℃に目を向けてもらうために今すぐ動こう、気温上昇を止めるために1.5℃の約束というキャンペーンを立ち上げることができました。

こうしたキャンペーンをSDGsメディアコンパクトの下で国連が手がけるのは世界初のことでございました。ここで、私たちがメディアの皆さんと一緒に作った動画をちょっとご覧いただきたいなと思います。

(動画ナレーション):世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑えるために、人類には後、0.4℃の猶予しかない。いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。1.5℃の約束。いまやっていることをどうしたらCO2を出さずにできるか。考えてみよう。いますぐ動こう、気温上昇を止めるために1.5℃の約束。夏ってこんなに暑かったっけ? 夕立ってこんなに激しかったっけ?いますぐ動こう。気温上昇を止めるために1.5℃の約束。


この告知動画、キャンペーンの動画は、大阪や神戸を含む日本中の街の街頭ビジョンでも流しましたし、このキャンペーンに参加しているメディアの中には積極的に放送に流してくださったところもたくさんありますので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。

NHKそして民放キー局は、共同でキャンペーンを手掛けてくださいまして、そして1時間にも及ぶ番組をNHKの総合で放送してくださるということもありました。画期的な動きでして、これは国連本部発で非常に優れた事例として発信するということもありました。

大変嬉しかったのは、20代、30代の若手、若者たちで作るメディアイズホープという市民団体があるんですけれども、こうしたそのメディアが気候変動のことをニュースで取り上げる、そういう動きを応援しよう、連帯しようということで、この1.5℃の約束キャンペーンを応援記者会見というものを東京の日本記者クラブで開催してくださるということがありました。市民からの、しかも、若者中心の動きとして大変嬉しい動きでもありました。

来週、このキャンペーンを振り返ってのインパクトについての調査結果も発表する予定なんですけれども、やはり1.5℃という具体的な数字を上げて私たちが日頃生活の中でどんなことができるのかということも取り上げた、というところが、大きなインパクトにつながっているという調査結果が暫定的に上がってきております。

掛け声だけ? 結果を、新しい枠組みを

先月行われたCOP27の場では、もう適応策あるいは防災の努力だけではもう太刀打ちができない状況にまで追い込まれてしまっている途上国、それから島国・小さな島国などを救うためのお金の流れを作っていこうということで損失と損害のための基金というもの、これを設立することでは合意ができました。しかしながら、排出量を削減していくそういう動きにおいては野心の高まりは十分にはありませんでした。これは大きな宿題です。

来年UAEで行われるCOP28までに、加盟国はさらにその排出削減の野心を高める計画というものを作って提出することになっています。それからもう一つは、ネットゼロ・エミッションということを掲げている企業であったり、金融機関であったり、自治体であったり、そういう動きはたくさんあるんですね、もはや、排出量の80%以上がそういうネットゼロ・エミッション、私たち頑張りますと言っている人たち主体のものになっている。

しかしながらその削減計画は掛け声だけで実体的な根拠のないものもたくさんあります。こういうものを英語ではグリーンウォッシングと言います。グリーンウォッシングは許しませんよ、という声も大変高まりました。ですので、日本の非国家主体、自治体もそうです、企業もそうです、金融機関もそうですけれども、もう掛け声だけでは済まされない。しっかり結果を出して、そして実態の伴った計画を示していく。人々の大変厳しい目が向けられているということも、今回のCOP27では大きく浮き彫りになりました。

国連事務総長は、この気候危機を救う上で若者たちはインスピレーションの源だと、声を大にして言っています。この写真に写っている事務総長、こんないい笑顔を私は他に見たことはありません。やはり若者と一緒にいることが彼自身にとっての闘志・ファイティングスピリットに火をつけるものになっているんだと思います。

SDGsもそして気候変動対策も、ただ単にブランディングSDGsの輪っかのマークあるいはその個別ゴールのアイコンを使えばいいというものではなくて、社会の枠組み、仕組みを大きく変えて新しい当たり前を築いていくためのものなんですね。ぜひここにお集まりの皆さんには、ただ単に私たちのやっていることはゴール何番あるいはターゲット何番に当たります、というような説明の仕方・説明の枠組みを超えて、実態を大きく変えてですね、新しい当たり前を作る運動・ムーブメントにまで高めていっていただきたいなと思っています。

私の座右の銘は「ピンチをチャンスに」です。それと同時に「転んでもただでは起きない」です。ぜひ今日お集まりの皆さんにはですね、大変厳しい状況に追い込まれているピンチの状況だからこその、いろいろな野心、そして大きなチャンスというものを生み出す、そういった動きを生み出していっていただきたいというふうに思っています。

今日はご清聴ありがとうございました。この後の質疑応答を楽しみにしております。ありがとうございました。

高すぎる壁。
一人ひとりは何から始めればいい?

【司会】根本所長、ありがとうございました。それでは少しお時間ありますので、ご来場の皆さんからの質疑応答に移りたいと思います。ご質問のある方は挙手をお願いいたします。ご発言の際にはご所属とお名前をお願いいたします。

【質問者】環境人間学部2年の西元です。本日は素晴らしいご講演ありがとうございました。我々のような若者のインスピレーションが重要になるというお話があったんですけれども、その正直、私のような一学生としましては、戦争とか、気候変動とか、すごい壁が高いと言いますか、すごい難しいところがあると思うんです。もちろん、やればできることもあるということで、私たちのような学生はどのようなところから一歩踏み出していけばいいのかが気になりました。

【根本所長】ご質問どうもありがとうございます。私は、声を上げるということは非常に重要なことで、立場にとらわれることなく声を上げることのできる若者・学生の役割は非常に大きいものがあるなというふうに思っています。

具体的な例としてなんですけれども、今、使い捨てプラスチックの撲滅を目指すための条約づくりというものがあるんですね。もともとの根っこにはですね、やはり使い捨てプラスチックに対して、これはいけないよね、あるいは美しいその海、美しい自然というものをもう一度取り返さなきゃいけないという人々の声がありました。その声が自治体の条例などにつながって、それがさらに国の法律につながって、それが今や条約づくりまでつながっています。もともとの発端にあった声を上げるという市民の動きがなくては、ここまではいかなかったと思うんですね。そういうものが、たくさんあります。こういう成功事例を、ぜひ大学では若い皆さんにどんどん教えていってほしいなと思います。

例えば、今年の通常国会で成立したものなんですけれども、建築物省エネ法の改正というものがありました。これは、建築物の省エネ化を進めるためには非常に重要なものなんですが、建築部門が果たす排出量削減のウェイトは非常に大きいんですね。日本は、まだ断熱化があまり進んでいないので建築部門が果たしうる脱炭素のウェイトは非常に大きい。しかし、今年の通常国会でこの法律の改正案を閣議決定するのを断念しようという、断念せざるを得ないという報道が流れたんです。

それに対して、学者であったり市民運動に携わっている人たちだったり、それから建築業界の人たちも声を上げて国会議員に陳情に行って、いろいろと市民の動きを作ってくださったんですね。それが政治を動かして、この改正案というものが閣議決定されて国会にも出されて、そして成立した。それはいけないよね、という市民の声がなくてはここまで行かなかったんですね。こういういろいろな事例がありますので、声を上げるということが出発点としていかに重要かということを、ぜひ大学では若い皆さんに教えていただければなというふうに思います。

【司会】ありがとうございました。そろそろ時間も迫ってまいりましたので、最後の質問とさせていただきたいんですけども、もうひとかた、いかがでしょうか。

SDGsに載っていない問題は?

【質問者】発表、ありがとうございました。環境人間学部2回生の中垣と申します。僕も高校生の時からいろいろ講演などを聞いて、国同士の関わりがすごい大切だなっていうふうに思っているんですけども、1点、SDGsに関して思うところがあって、SDGsでも対応しきれていないような、けれど世界的に対応しなきゃいけない問題っていうのが実際あると認識しています。例えば、国連っていうのはグローバリゼーションの賜物だと思うんですけども、そういうグローバリゼーションの結果で文化が損なわれるみたいな話があります。そういうことはやっぱり世界的に対応していくべきものという認識にたぶんなっていると思うんですけど、SDGsには載ってない。確実にこれはみんなで対応すべきだろうなっていう問題に対してはどのように対応していったらいいとお考えでしょうか?

【根本所長】はい、ありがとうございます。今日お話しした中で偽情報、誤情報との戦いというものがあります。偽情報、誤情報の蔓延、拡散、これをソーシャルメディア、SNSが拍車をかけているという現実があるわけです。これがすごく世界的な脅威だと認識されるようになったのは新型コロナウイルス感染症のパンデミックがきっかけだったんですね。これ2020年です。2015年に採択されたSDGs以降のことではあります。ただSDGsのその大きな目標の下に169のターゲットというものが、個別ターゲットより具体的なターゲットがあるんですけれども、そういうものの中には、やはりその情報へのアクセス、正しい情報へのアクセスを担保すること、あるいはデジタルデバイドを乗り越えること、克服すること、あるいは人々の知る権利を担保すること、そういったものも書かれているんですね。それを解釈していけば、2015年の採択以降に起こった新しい事象なども対応できるというところがあります。
また、日本でいろいろな方々と話す中でSDGsの18番目のゴールにこれ入れてよ、というような話もよくあります。東京大学の総長もなさった小宮山先生などがおっしゃるのは高齢者の問題、エイジズム(ageism)の問題とか、高齢者の問題っていうものをSDGsに入れるべきだと、18番目のゴールに自分はプラチナ社会というところで提唱したいというふうにおっしゃるんです。けれどもそれは例えばゴール10の格差をなくすというものの中には、様々な立場が根拠になっている格差であったり・差別であったり・排除であったり、そういったものをなくすんだということも書かれているんですね。ですのでSDGsというのはいろいろな解釈のありようによって、新しいあるいは先鋭化する問題に対しても十分対応できるものになっているかと思います。

それでも対応しきれないもの、あるいはまだまだ大きな宿題として突きつけられるものもある。2030年を超えて考えていかなければいけないものもあります。それはさきほど申し上げた2024年の未来サミットに向けたプロセス、成果文書の交渉であったり、それに向けた様々な準備会合もありますけれども、そこでどんどん収斂化が行われていくんじゃないかなというふうに思います。

【司会】ありがとうございます。まだまだ議論は尽きないんですけども、時間になりましたのでこのあたりで記念講演を終了とさせていただきます。根本かおる所長、本日は誠にありがとうございました。皆さん、根本様に今一度、大きな拍手をお願いいたします。

式典概要

日時 2023年12月17日13:00~16:00
場所 アクリエひめじ 中ホール
主催 兵庫県立大学大学院環境人間学研究科
後援 文部科学省、環境省近畿地方環境事務所、兵庫県、兵庫県教育委員会、姫路市、姫路市教育委員会、姫路商工会議所、地球環境戦略研究機構、日本経済新聞社大阪本社、ゆりのき会

第1部
 開会挨拶:環境人間学部長・環境人間学研究科長  内田 勇人
 祝辞:兵庫県立大学学長 太田 勲
 祝辞:兵庫県公立大学法人理事長 五百旗頭 真
 来賓祝辞:兵庫県知事代理 新県政推進室長兼総務部長 小橋 浩一 様
 来賓祝辞:姫路市長 清元 秀泰 様
 研究科の歩み:環境人間学部長・環境人間学研究科長  内田 勇人

第2部
 「気候変動と国連~SDGsがもたらす未来~」国際連合広報センター所長 根本 かおる 様
 国連アカデミック・インパクトの紹介:環境人間学部教授 高橋 綾子
 環境人間学フォーラム授賞式:司会:環境人間学部教授・坂本薫(学生部長) 加藤 陽二(学術情報館長)

■SDGs賞
〇都市計画研究室(太田ゼミ)前田菜緒(代理 環境人間学部准教授 太田尚孝)
 「グリーンインフラ、雨庭の現状整理と京都市における雨庭整備位置の妥当性の検証」
〇学生団体「SOGIいろ」
 「セクシャリティを語ることはタブーなのか?~ジェンダーの多様性をキャンパスに広める「SOGIウィーク」の実践~」
■SDGs賞(特別賞)
〇兵庫県立姫路西高校チーム「シミュヒート」
 「ため池がヒートアイランド現象に及ぼす効果」
閉会挨拶:兵庫県立大学副学長 高坂 誠

兵庫県立大学大学院環境人間学研究科
開設20周年記念式典実行委員会

実行委員長
内田 勇人

委員
吉村 美紀、寺西 雅之、坂本 薫、加藤 陽二、土川 忠浩、木村 玲欧、太田 英利、石倉 和佳、宇高 雄志、高橋 綾子、井関 崇博、西村 洋平、増原 直樹、中出 麻紀子、伊藤 雅之、木村 敏文、森安 秀和、永田 育子、大塚 加奈江、小野山 守、多賀 典子